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「へー。日曜日、琉島先輩とデートなんだぁ」
あたしの部屋のベッドでくつろいでいたちとせが、むくっと起き上がった。
「うん。映画観に行くの」
「だんだん彼氏と彼女ってカンジになって
きたじゃーん。どう?実感湧いてきた?」
「んー……。ちょっとはね」
「はぁー。羨ましい。あたしも誰かとデートしたーい」
ちとせがため息をついた。
「よく言うよー。ちとせのこと好きで告白してきた人、ぜーんぶフっちゃうくせに」
ちとせってけっこうモテるから、その気になればすぐ彼氏だってできるのに。
「だって、好みのタイプじゃないんだもん」
「ちとせは理想が高いんだよ」
「そんなことないもん。奈々はいいよなぁ。自分がずっと好きだった人から『好きだ』って言われてさ。あたしもそういうのがいいなぁー」
うっとりしながらポテチを食べるちとせ。
「ねぇ。前にも聞いたけど、ちとせホントに好きな人いないのぉ?」
あたしはじとーっとちとせの顔を覗き込んだ。
「いたら、そんな出し惜しみしないでさっさと話すって。ところでさー。あれから鉄平とは会った?」
ちとせがジュースを飲みながら聞いてきた。
「……ううん」
鉄平とはあの退院の日以来、連絡もしてないし会ってもいない。
「そっかー。なんかほぼ毎日病院通って鉄平と会ってたから、会わないのも変なカンジ
しない?」
「うんー……」
「鉄平も奈々に会えなくて寂しがってるよ、きっと」
「それはないよ」
あたしの真面目な声に、ちとせがこっちを向いた。
「ちとせにさ、この前のこと話したじゃん?鉄平と帰ってる途中で琉島先輩に会って、なんか変なカタチで鉄平に知れたっていうか……」
「うん」
「実はね。あの日、家の前で鉄平と別れる時にあたしハッキリ言われたんだ。あたしに好きだって言ったことはもう忘れてって……。あの時は記憶がなくてどうかしてたんだって……」
「えー?」
「あたしとはやっぱり男と女ってカンジにはならない、幼なじみ以上にはならないって……。それを言おうと思ってたって……」
その時の風景が頭に蘇って、あたしはなんだか重い気持ちになった。
「なに鉄平。アイツそんなこと言ったの?」
「……うん」
「なんでそんなこと言うかなー。まぁ、もしかしたら鉄平なりの気遣いだったのかもしれないけど。それにしたってもうちょっと他の言い方があるだろうにー」
ちとせが、若干納得いかないといった様子でちょっとむぅっとしながら腕組みをした。
「気遣い……」
「そ。奈々が自分のことを気にしないで、琉島先輩とつき合えるようにわざと言ったんじゃない?もうオレのことなんて気にしなくていいから……的なカンジでさ」
「わかんないけど……。そうなのかもしれないけど……。なんかさぁ、記憶も戻ってすっかり元の鉄平になったのに。楽しかったのに。あの帰り道で琉島先輩に会ったあとから、急によそよそしいっていうか……。家だってこんなに近いのに、なんか鉄平が遠くに行っちゃったみたいなカンジでさ……」
なんだろう、この気持ちはーーーーーー。
「なに言ってんのー。奈々と鉄平は幼なじみなんだよ?家もすぐ隣じゃん。引っ越しでもしない限りずっと一緒じゃん、アンタ達は」
「そうだけど……」
「大丈夫だよ。鉄平とはまたすぐいつもの調子でふざけて笑ってケンカするようになるから。だから、奈々はそんなこと気にしてないで、琉島先輩との恋に突き進めばいいの。せっかく両想いになってつき合うことができたんだから。そんな暗い顔してたら、先輩もがっかりするよ」
「うん……。そうだよね」
ちとせの言うとおりだよね。
あたしも先輩には笑っててほしいもん。
あたしと先輩は、もう彼氏と彼女なんだよね。
なんだか恥ずかしいけど……。
だから、これから先輩といっぱい楽しいことしなきゃ。
いっぱい笑わなきゃ。
今まで先輩の前で泣いてばっかりだったあたし。
これからは、先輩にいっぱい笑顔を見せてあげたい。
あたしは、強くそう思ったんだーーーーー。
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