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「佐河、どうした?」


先輩の声。


「え?あ、いえっ。なんでもないです」


駅前のファミレス。


コーヒーを飲んでいた先輩が、あたしの顔を覗き込んだ。





鉄平が退院してから2日後。


あたしは先輩と会った。


「佐河の大好きなパフェ。全然食べてないじゃん」


あたしの目の前には、大好物のチョコレートパフェ。


「そ、そんなことないですよっ」


あたしは、慌ててパフェを食べ出した。


「ーーーーーなんか、あった?」


ドキ。


「電話でもなんか元気なかったし。昨日も、おとといも」


え、ウソ。


あたし、ちゃんと明るく話してたよ?


先輩が静かにコーヒーカップをテーブルに置いた。


「オレ、佐河にちょっと聞きたいこと、あるんだけど」


「え……?」


先輩があたしの方を見る。


真っ直ぐな先輩の瞳。


なんだか、心の中まで見られていそうで。


あたしはなぜかビクッとしてしまった。


「な、なんですか……?」


「利久原のことなんだけどーーーーー」


え。



「オレと佐河がつき合ってること。てっきり利久原も知ってると思ってた」


「あ……」


「歩道橋のとこで3人で会った時の雰囲気。なんか変だったとオレは思ったんだけど」


ドキン。


鈍い心臓の音。


先輩が、コーヒーをゆっくりひと口飲んでまたカップをテーブルに置いた。


「なんかあったのか?利久原と………」


「……それは………」


確かに、あったことはあったけど……。


でも、もうなにも……なにもないよ、先輩。


あたしの脳裏に、この前の別れ際の鉄平の姿が浮かんだ。


〝バタン〟ーーーーーーーー。


寂しく、重く閉まったドアの音が、今も頭から離れない。


「佐河。オレ達つき合ってるんだよ。隠さないで話してほしい」


先輩……。



「………実はあたし、前に鉄平に告白されました……。入院中にです。でも、好きだって言われただけで、つき合ってほしいとかそういうのはなくて。だから、ホントになんでもないんです。……あたしが先輩とつき合ってることも、別に鉄平に隠してたわけじゃないんです。ただ、話すきっかけがなかっただけで……」



「そっか……。やっぱりそうだったんだ」


やっぱり……?


先輩が静かに言った。


「佐河と利久原って幼なじみで仲良かっただろ。でも、なんとなくそれだけの2人じゃないような気がしてた」


「え……?」


「この前の利久原を見た時。佐河のこと、好きなんじゃないかって思ってた」


「ち、違うんですっ。あのあと、あたし鉄平に言われたんです。やっぱりあたしとは幼なじみ以上にはならないって……。だから、あのことはもう忘れてくれって……」


あたしは鉄平にハッキリそう言われたんだ。


「ーーーーーそれで、元気なかったんだ」


えっ?


「そ、そんなことないですっ!違いますっ!」


思わずあたしは身を乗り出した。


すると、先輩がふっと笑ったの。


「いいよ、そんな全力で否定しなくても。わかってるから。佐河がオレを選んでくれて、それでオレ達今つき合ってるんだから」


「あ……はい」


なんか恥ずかしくて、あたしの顔は赤くなってしまった。


「あれ、してくれてる?」


先輩が首元を指差した。


ネックレス……。


「なんだかもったいなくて……。まだ大事に箱に入れて飾ってあります」


あたしがそう言うと、先輩が優しく笑った。


「飾ってないでつけてよ」


「は、はい……」


先輩の笑顔につられて、あたしも少し笑った。



「ーーーー佐河、次の日曜デートしよっか」


「えっ?」


突然の先輩の言葉に、あたしは思わず声が裏返ってしまった。


ひぇぇ、恥ずかしいっ。


そんなあたしを見て、先輩はおかしそうに笑った。


「そんな驚くことないだろ?オレ達つき合ってんだし。ほら、こうやって会ったりはしてるけど、どっかに出かけたりとか、そういうちゃんとしたデートってまだしてないだろ?」


デ、デート。


なんか緊張するなぁ、その響き。


「それとも、なんか予定ある?」


「い、いえっ。全く予定なしです!」


はっ。


し、しまった、つい興奮してまた身を乗り出してしまった。


もぉぉ、あたし先輩の前でさっきから恥ずかし過ぎだー。


しゅん。


うなだれてると。


「佐河って、素直でカワイイよな」


先輩がほおづえをついてにっこり笑ったの。


ドキンッ。


カ、カワイイ⁉︎あたしがっ?


かあぁぁ。


あたしの顔は一気にゆでダコ。


先輩ってば、平気な顔してサラッとそんなこと言うんだもん。


こっちは焦っちゃうよ。


そりゃ、先輩みたいなステキな人にカワイイなんて言われたら、女の子は誰だって嬉しくなっちゃうけど。


「どこ行こうか。佐河の行きたいとこでいいよ。どこ行きたい?」


先輩は相変わらずニコニコしたまま、あたしに優しく聞いてくる。


え?あたしの行きたいところ?


えー……どこかなー。


「えっと、えっと……」


先輩とのデート。


やっぱり、まずはーーーーーー……。



「映画っ!あたし、映画を観に行きたいですっ」


あたしは元気よく答えた。


あたしの中の初デートのイメージは、やっぱり映画ってカンジかも。


好きな人の隣に座って、ポップコーンを食べながら映画を観るの。


映画館でカップルを見るたびに、いいなぁって憧れてたの。


あたしも、いつかあんな風なデートをしてみたいなぁって。


「じゃあ、次の日曜のデートは映画で決まりだな」


「わーい!映画、嬉しいっ」


琉島先輩と映画でデートなんて。


なんか自分がドラマのヒロインになった気分。


すごいすごい。


あたしが喜んでいると、先輩が少し安心したような笑顔で言ったんだ。


「よかった。元気になって」


「え……」


「佐河が元気だと、オレも嬉しい」


先輩……。


あたし……先輩に心配ばっかりさせてる。


先輩はいつもあたしのこと気にかけてくれてる。


あたしが元気だと、先輩も笑ってくれる。


すごく嬉しそう……。


すごく……あたしのことを好きでいてくれてる。



わかるの。


感じるの。


先輩の優しい瞳を………。


あったかいぬくもりを………。


あたしも先輩には笑っていてほしい。


元気でいてほしい。


先輩を悲しませたくない。



「映画の前に飯でも食おうか。どっかうまいとこで」


この人を悲しませたくない。


「ーーーーーーはいっ」


あたしは笑顔で返事した。







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