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そして、先輩と初デートの日曜日がやってきた。
外は気持ちのいい冬晴れ。
あたしは、お気に入りのニットを着てお気に入りのスカートを履き、買ったばかりの茶色のロングブーツを合わせて家を出た。
ちら。
隣の鉄平の家に視線が止まる。
鉄平……元気かな。
無意識のうちにそんなことを考えていたあたしは、慌ててプルプル首を振った。
先輩とデート前になに考えてんだろ、あたし。
よし、気持ち切り替えよう!
あたしは首元を触った。
今日は、先輩からもらったクロスのネックレスをしてきたんだ。
カワイイ。
あたしは、先輩との待ち合わせ場所に向かって元気よく歩き出した。
駅前通りのパルコの正面玄関。
あたしよりひと足先に来ていた先輩が、あたしに気がついて笑顔になった。
「先輩、待ちました?」
「いや、ついさっき来たとこ。腹減ったな、なに食いに行こうか」
そう言った先輩は、ごく自然にあたしの手をつないで歩き出したの。
ドキッ。
先輩と初めてつなぐ手。
ど、どうしよう、緊張して手が汗ばみそうだよーっ。
興奮してるあたしをよそに、先輩は平然としたカンジで歩いている。
ドキドキドキ。
ちら。
先輩の横顔を見る。
優しい笑顔。
あたし……こんなステキな人とデートしてるんだ。
なんか信じられないよ。
「佐河はなに食べたい?」
「あ、えーっと。なんでもいいです」
「なんでもかぁ。せっかくだから佐河の好きなもの食おうよ。もちろんオレのおごりだからなんでもいいよ」
「……ホントにあたしの好きなものでいいんすか?」
「もちろん」
「じゃあ……ハンバーガー!」
あたしが元気よく答えると、先輩がポカンとした顔であたしを見た。
「ハンバーガー?……そんなんでいいの?」
「はいっ。あたしハンバーガー大好き!先輩、マックでもいいですか?」
拍子抜けしたような、はたまた不思議なものを見るような表情の先輩。
「あ……先輩、もしかしてハンバーガーあんまり好きじゃなかったですか……?」
あたしがおそるおそる聞くと、先輩がおかしそうに笑い出したんだ。
……あたし、なんか変なこと言った?
「ごめんごめん」
「佐河、カワイくて」
「えっ?」
「めっちゃ嬉しそうに『ハンバーガー大好き!』なんて言うから、なんかカワイくて。ハンバーガーはオレも好きだから全然いいけど、でもパスタでも肉でも寿司でもオシャレなカフェでも……他にもいろいろあるのに。ホントにそんなんでいいわけ?」
かぁぁ。
ほっぺたが赤くなる。
「は、はい。そんなんでというより……それがいいです」
うつむきながら返事をすると。
「よし。じゃあマックに行こうっ」
先輩があたしの手をキュッと握り直した。
「佐河、ハンバーガー好きなだけ食っていいぞ。10個でも20個でも。おかわり自由だ」
ちょっとイタズラっぽく先輩があたしに言った。
「いくら大好きでも、そんなには食べれませんっ」
思わずあたしがむきになると。
パチ。
先輩と目が合って、2人で笑っちゃった。
笑いながらあたしは思った。
今日のこのデートを楽しもう。
今日1日を楽しもうーーーーーーって。
出だしは好調。
琉島先輩との初デート、きっと楽しく過ごせる。
きっと楽しい想い出になる。
あたしはそう思っていた。
このあと、映画館でアイツと出会ってしまう前までは……ーーーーーーー。
「わー。嬉しいっ。あたしこの映画観たかったんですっ」
楽しいランチのあと、あたしと先輩は映画館にやってきたの。
先輩が買ってきてくれたチケットを手にして、あたしは興奮状態。
この映画、ホントに観たかったんだよねー。
それに、憧れだった映画館でのデート。
今、自分がそれをしてるんだと思うと、なんだか夢心地の気分だよ。
「始まるまでまだちょっと時間あるな。なんか飲み物でも買ってくるよ」
「あたしも行きます!」
へっへー。
やっぱアレも買わないと。
「佐河はなにがいい?」
「じゃあ、ウーロン茶で」
「オッケー」
先輩が飲み物を買ってくれてる間に、あたしはちょっと空いている隣のカウンターに並んでアレを注文したの。
そう、おきまりのポップコーン!
好きな人とポップコーンを食べながら映画を観るのが、あたしの憧れだったんだよね。
「ポップコーン2つ下さい。えっと……L……じゃなくてMサイズで」
ホントはいちばん大きいのにしたかったんだけど、一応先輩の前だし中くらいのにしとこう。
そしてあたしはポップコーンを両手に持って、先輩のとこに駆け寄ったの。
「はい、先輩」
あたしは笑顔で先輩にポップコーンを差し出した。
「佐河、どこに行ったのかと思ったら。ポップコーン買ってたのか?」
「はいっ。やっぱこれがないと」
「佐河、嬉しそうだな。ポップコーン好きなんだ」
笑顔の先輩。
「先輩はあんまり好きじゃなかったですか……?」
よく考えると、琉島先輩みたいにステキな大人の男ってカンジの人は黙って映画を観て、ポップコーンなんて子どもっぽいもの食べないのかも。
「いや、昔はよく好きで食べたよ。映画観ながら。久しぶりだなぁ」
懐かしそうに笑ってる。
よかったー。
「でも、言ってくれればオレが買ったのに。いくらだった?」
先輩がポケットから財布を取り出す。
「あ、いいんですっ。これくらい。先輩には、お昼ご飯もチケット代もいろいろおごってもらったので」
「そんなの気にしなくていいよ。オレがしたくてしてるんだから」
「でも、これはあたしが払います」
「じゃ、ごちそうになろうかな。ありがとう」
先輩の優しい笑顔。
なんか、先輩ってホント大人だなぁ。
すごいなぁ。
あたしはしみじみ感じてしまった。
「あそこ座ろうか」
「はい」
ドリンクの入ったボックスとポップコーンを持って、あたし達は近くの空いてるイスに座った。
あたしと先輩は、映画が始まるまでの時間を他愛もないおしゃべりをして楽しんでいた。
「佐河って意外とアクションものとか好きなんだな」
「はいっ。なんかこうスカッとするんですよね」
その時だった。
あたしは一瞬、視界の隅に見覚えのある人影を見たような気がしたんだ。
「?」
先輩側のずっと右奥のトイレ付近。
何人かの高校生らしき男子達。
しゃがみ込んだり、壁に寄りかかったりしながら話している。
なんとなくその様子をぼんやり見ていたあたし。
その瞬間。
………えっ?
あたしは目を疑った。
て、鉄平ーーーーーーーー?
なんとそこには、あれっきり連絡も取っていない鉄平の姿があったんだ。
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