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「あたしさぁ。やっぱり奈々と鉄平はなんか特別なんだなぁって思ってた。ずっと前から。お互いがお互いを必要としてるっていうかさ」
「うん……」
「だけど。奈々が琉島先輩のことを好きで憧れていたのはホントだったし、奈々が真剣に先輩の気持ちに応えたいと思ってるなら、あたしも応援したいと思ってたんだ」
「ちとせ……」
「でも。その奈々の先輩に対する好きだと思った気持ちは、なんていうか……。好きなんだけど、憧れの好きっていうか。実際に先輩とつき合ってみて、そのことに気づいたっていうか……。
奈々にとって、先輩はやっぱりちょっと遠くから憧れてる先輩で。その憧れ以上の気持ちにはなれなかったのかもしれないね。なんかうまく言えないんだけどさ」
「………うん。そうだったのかもしれない……」
ちとせの言うとおり。
あたしの先輩への気持ちは、まさしく『憧れ』だったんだと思う。
あたし……恋に恋にしてたのかもしれないな。
先輩みたいなステキな人に、あんな風に優しくされて。
先輩とあんな風にデートしたりとか。
「…………………」
あたしは、首元にしているクロスのネックレスを外した。
手の中でピカピカ光るクロス。
先輩……ーーーーーー。
ホントにごめんなさい。
そして、たくさんありがとう。
「あたし………。ちゃんと先輩に自分の気持ち正直に話す。今度こそ本当の……自分の本当の気持ちーーーーー」
もう、自分をごまかさない。
ちゃんと素直な自分と向き合うの。
「もうひとり。ちゃんと自分の気持ちぶつけなきゃいけない人、いるでしょ?」
ドキン。
「てつやが言ってたよ。鉄平の様子も変だったって」
「え……?」
「奈々と琉島先輩が手をつないでるところを見たあとからずっと、鉄平ってばだんまりで元気なかったって」
「……でも。あたし、前に鉄平にハッキリ言われたんだよ。あたしとは幼なじみ以上にはならないって……。男と女ってカンジじゃないって……」
うつむいてるあたしに、ちとせがポンッと背中を叩いてきたの。
「だーかーら。前にも言ったでしょ?鉄平は、思ってることと裏腹のこと言っちゃう性格のヤツだって。アイツも素直じゃないよねー。ホント」
でも………。
「でも……。あたし、鉄平に思いっ切り無視されたし……」
「もぉーっ。ホントじれったい!奈々も鉄平もっ」
ちとせが持っていた水のコップをコン!と置いた。
「つべこべ言わずに、2人にちゃんと会ってちゃんと話してスッキリしてこいっ」
えっ。
「は、はいっ……」
ちとせの威勢に、あたしは思わず戸惑いながらもこっくり大きくうなずいてしまった。
「よし。ホントだね?鉄平?先輩?どっちが先?」
「えっ?そ、そんなこといきなり言われてもっ」
「じゃ、鉄平からねっ」
えっ?
ちとせはそう言うと、自分のケータイを取り出してなにやら誰かにかけ始めたの。
「えっ。ちょ、ちょっと?誰にかけてんの?」
まさか……。
「鉄平に決まってんじゃん」
えーーーーーーーっ⁉︎
「こうでもしなきゃ、奈々はいつまでも『でも……』『だって……』の繰り返しで、鉄平のとこ行かないでしょ?」
サラッと言うちとせ。
「ま、待って!!行くっ。ちゃんと鉄平に会いに行って、ちゃんと話すからっ」
心臓バクバク。
じとー。
ちとせがあたしを横目で見る。
「ホント?」
「ホ、ホント!あ、明日ちゃんと2人に会ってくる。会って、自分の本当の気持ちをちゃんと伝えてくる……」
あたしはうなずきながら真剣に言った。
「ーーーーーよしっ」
ちとせがにっと笑って、真っ暗な画面のケータイをあたしに見せた。
「鉄平にかけてませーん。かけてたフリ、でしたー」
「……ええーーっ?」
身を乗り出して立ち上がっていたあたしは、ふにゃーっとイスに座り込んだ。
「もぉぉ!ビックリしたぁー。ちとせってば、いきなりケータイ取り出して鉄平にかけるとか言うから。てっきりホントにかける気だと思って、あたしめちゃくちゃ焦っちゃったよぉー」
テーブルに突っ伏してるあたしを見て、ちとせが大笑いしてる。
「焦ってたねー奈々。でも、これでなんか吹っ切れて決心ついたでしょ?」
「ーーーーーはい。おかげでホントになんだか吹っ切れました」
あたしも笑った。
焦り過ぎて、ウジウジしてた気持ちが吹っ飛んじゃったよ。
明日、2人に会ってこようーーーーーー。
どんな結果があたしを待っているのかわからないけど。
今度こそ、ありのままの素直な本当の自分で。
琉島先輩と鉄平に会ってこよう。
「ちとせ。ホントにいろいろありがとう。あたし、明日2人に会ってくる。どうなるかわからないけど、自分の正直な気持ちを伝えてくる」
真っ直ぐキッパリ言ったあたしに、ちとせが笑顔でうなずく。
「がんばれ、奈々!」
「うんっ」
あたしも笑顔でうなずいた。
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