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………本当は、心のどこかでわかってたんだ。
あたしの中にいるたったひとりの人が誰なのか。
だけど、あたしは気づかないフリをしていたのかもしれない。
先輩に憧れてた気持ちは本当だった。
だけどーーーーーーー。
鉄平の事故をきっかけに、あたしは自分の気持ちの変化、心の奥の奥の気持ちに気づいたことに……戸惑っていたのかもしれない。
いろんなことの中で、いつも優しくしてくれた先輩。
嬉しいな、好きだな……って思ったのはウソじゃない。
でも……。
先輩といる時のあたしは、いつもなにか自分に言い聞かせていたような気がする。
先輩を悲しませてはいけない。
先輩の気持ちに一生懸命応えよう。
先輩との時間を楽しもう。
笑おう。
ホントはそうじゃないよね……。
自分が本当に一緒にいたい人といたら、その人の気持ちに応えなきゃなんて思わない。
楽しもうなんて言い聞かせなくても、自然と楽しい。
笑おうなんて思わなくても、自然と笑ってるんだ。
ふっと……アイツの笑顔が浮かぶ。
鉄平ーーーーーーーー。
ダメなんだ。
あたし……どんなに優しくてステキな先輩があたしのことを好きでいてくれても。
ダメなんだ。
先輩……ホントにごめんなさい。
あたし、アイツじゃないとダメなんです。
鉄平に無視されただけで、人生最大のショックに感じてしまうほど。
あたしは、鉄平が好きみたいです。
「う…………」
堪えていた涙が、ぶわっと溢れ出てきた。
今更遅いよね。
本当の気持ちに気づいたってーーーーーー。
少しずつ、空が夕方色に変わろうとしている中で。
あたしはいつまでもベンチに座っていた。
溢れる涙を、何度も何度も拭いながらーーーーーー……。
どれくらい時間が経っただろう。
辺りはもうすっかり暗く、寒い。
泣き過ぎて頭がボーッとしている。
今、何時かな……。
バッグからケータイを取り出す。
あ……また電池切れてる……。
あたしもおんなじ。
電池切れ。
涙も枯れたよ。
暗いし、寒いし……でも動く気力もない。
このケータイ、最近すぐ充電なくなっちゃうんだよね……。
ずっと使ってるからな……そろそろ替え時かな……なんて考えながら、あたしはぼんやり光る外灯を見ていた。
と、誰かの足音が聞こえてきたんだ。
こっちに向かってくる。
誰……?
すると。
「やーっぱりここだったか」
「……ちとせ」
足音の正体は、カラッと明るい笑顔のちとせだった。
「どうして……?」
ビックリしているあたしの顔を見て、ちとせが笑ったの。
「ひっどい顔。ひとりでずっとここで泣いてたんでしょ」
そう言って、ちとせはあたしの隣に座った。
「てつやがね、電話くれたの」
「え……?」
てつやが……?
「佐河の様子が変だったから、電話してみてやってくれって。まぁ、大体の話は聞いた」
そうなんだ……。
てつや、あたしのこと心配してちとせに教えてくれたんだ。
「で、奈々に電話したんだけど。全然繋がんないんだもん。電池切れてたでしょー。もぉー」
「ごめん……」
「だから、あちこち捜したよー」
ちとせ……ずっとあたしのこと捜してくれてたの?
「ちとせ……」
枯れたハズの涙が、またじわっと溢れてきた。
「あ、ありがとう……」
「あーもうっ。それ以上泣くなっ」
ぶにっ。
ちとせがあたしのほっぺたをつまんだ。
ふ……。
スカスカで凍えそうになってた心が、なんだか少しあったかくなったカンジ。
「とりあえず、どっかでご飯でも食べよ」
カラッと笑うちとせ。
じわ。
「ちとせ……」
ちとせの優しさが胸にしみて。
あたしは、大粒の涙を流しながらちとせに抱きついた。
ゆらゆら。
あったかいうどんの湯気。
あたしとちとせは、駅前にあるよく行くうどん屋のいつもの壁側の席に座っていた。
「……おいしい。あったまる」
ダシのきいたおいしいつゆをたっぷり吸い込んだ大きい油揚げが乗っているきつねうどん。
あたしは、泣きはらした腫れぼったい顔でちとせに笑いかけた。
「ぶっ」
吹き出すちとせ。
「その顔、ホントウケる」
「もぉぉ、そんなに笑わないでよー」
ちとせってばひどい。
でも、ホントに嬉しかったよ。
ちとせが来てくれて。
ずっとあたしのこと捜しててくれて。
ありがとう、ちとせ。
「ーーーーーー奈々、あたしの思ってること正直に話していい?」
「……うん。もちろん」
ちとせが箸を動かす手を止めた。
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