51
「ちょーっと。遅い!」
冬休み明けの新学期の朝。
案の定、寝坊した鉄平が、コートを脇に挟み、口にパンをくわえてブレザーを着ながら家を飛び出してきた。
「おう、わりわり」
鉄平ってばのん気な顔。
「もぉ!シャツのボタンくらいちゃんとしめてっ。ネクタイもっ。今日から新学期なんだからシャキッとしてよっ」
「朝からギャーギャーうるせーなぁ」
大口でパンをモグモグ食べながら言う鉄平。
「ギャーギャーってなによっ。あたしはねぇっ……」
「あーうっせうっせ。ほら、早く行くぞっ」
「ちょっと!なによそれっ。あ、もうこんな時間じゃん!遅刻したら鉄平のせいだからねっ」
あの日。
ずっと心にあった自分の気持ちを伝えて、やっと想いが届いたあたし達だけど。
相変わらず、こんな風に騒がしい日々を過ごしています。
「おっせーぞ、奈々」
へっへーんと笑いながら先を走って行く鉄平。
信じらんない。
自分が遅れてきたくせに、待っていたあたしをおいて先に行くか?普通!
「ちょっと!待ってよっ」
もぉー!
あたしが必死で鉄平の背中を追いかけていると、鉄平が急にゆっくりになって。
ガシ。
あたしの手をつないできたんだ。
「おっせーんだよ」
なんて言いながら、ちょっと照れくさそうな鉄平。
ぷぷぷ。
鉄平、なんかカワイイ。
「なに笑ってんだよ」
「べつにー」
ちょっと不器用でぎこちない鉄平の手。
でも、ホントはあったかくてとっても優しいってこと。
あたしは知ってるよ。
ほら、今だってあたしの速さに合わせて走ってくれてる。
そういえば、小さい頃よく鬼ごっことかして遊んでた時、いつも2人で一緒に逃げたよね。
キャーキャー言いながら、小さな手と手をしっかりつないで。
あたしはよく転ぶ子で、しょっちゅうひざ小僧を擦りむいては泣いてて。
だけど、そんなあたしを鉄平はいつもおんぶして家まで送ってくれたよね。
痛くて悲しくてしくしく泣いてたあたしだったけど、鉄平のあったかい背中におんぶされてると、不思議と気持ちが落ち着いて。
安心して、いつの間にか泣き止んでたっけ。
その頃からきっと、あたしは鉄平のことが大好きだったんだ。
つまずいても、転んでも。
きっと2人なら越えていける。
どんなことでも乗り越えていける。
これからも、またしょっちゅうケンカもするかもしれない。
雨の日も、風の日も、嵐の日もあるかもしれない。
でも鉄平とだったら。
必ず、また太陽が昇る。
必ず、また2人で笑ってる。
絶対に笑ってるーーーーーーーー。
キーンコーンカーン……。
校門まであと一歩というところで、チャイムの音。
「ちょーっと!チャイム鳴っちゃったじゃんっ。バカ!」
「うるせーなぁ。まだ間に合うって」
ギャースカ騒ぎながら、全速力で突っ走るあたし達。
しっかりと手をつないだまま。
走りながら、鉄平の横顔を見る。
丸く幼くやんちゃ坊主だった少年が、いつの間にかキリッとした凛々しい青年の輪郭へと変わっていた。
トクトクトク……。
小さな鼓動がずっと鳴っている。
好きーーーーー。
前よりも、ずっとずっと。
世界でたったひとりの、あたしの愛しい
T・Rーーーーーーーーー。
「遅刻するーーーーっ。鉄平のバカ!」
そうわめきながらも。
つないだ手と手が愛しくて。
あたしは、嬉しくて楽しかった。
「遅刻かもな」
にししと笑ってあたしを見る鉄平。
「もぉぉーーー!」
あたし達は笑いながら、さわやかな冬晴れの下を走っていった。
これから始まる、明るい明るいあたし達の未来に向かってーーーーーーー。
T・R 花奈よりこ @happy1023
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