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「ーーーーーへ?琉島るとう先輩の目の前で、鉄平に足を引っ掛けられて、すっ転んで、その上スカートがめくれて、パンツ丸見えになったぁ?」



コクン。


あたしは、神妙な面持ちで大きくうなずいた。


「有り得ないでしょっ?ひどいでしょっ?もう、信じらんないっ!」


憧れの琉島先輩にあんな恥ずかしいとこ見られちゃうなんてっ。


しかも、あのバカ鉄平のせいで!


恥ずかしさと悔しさで、涙が止まんないよ。


ぐすん、ぐすんっ。


誰もいない女子トイレでトイレットペーパーを握りしめるあたし。



「そんな落ち込むなって。っていうか、別に大したことじゃないじゃん。それに、鉄平もわざとやったわけじゃないんでしょ?」


ちとせがケラケラ笑いながら言った。


「大したことよ!じゃあ、ちとせは、めちゃめちゃ憧れてる人にあんなぶざまにすっ転んでパンツ丸出しの超絶恥ずかしい姿を見られても平気なわけ?」


「え?それは……イヤだかも」


「でしょ⁉︎」


「でもまぁ、そんなの琉島先輩もすぐ忘れるって。大丈夫、大丈夫」


なんてカラカラ笑いながら……いや、むしろ爆笑しているちとせ。


ひーーーん。


やっぱしょせん、この悲しみはあたしにしかわかんないのよぉ。


「もう恥ずかしくて顔合わせられなーーい」


これも全部憎っくきアイツのせいよっ。


「鉄平のヤツ、絶対許さないっ」


ボンッ。


トイレットペーパーに八つ当たり。


壁に当たって、コロコロと白いレールを敷いた。


「まぁまぁ。落ち着きなよ奈々。大体、なんで掃除の時間に琉島先輩がうちらの教室の前にいたわけ?」


グスン。


「……あたしがね、ひとりで廊下を掃除してた時だったの……」





今日は、あたし達の班が教室当番の日だったの。


ちとせと同じ班なんだけど、ちとせは用があって職員室に行ってたから、あたしはひとりで廊下を掃いていたんだ。



教室の中ではいつものごとく、鉄平を筆頭に同じ班の男子達が、ホウキやモップを振り回しながら騒いで遊んでいたの。


あとで教育的指導だわ、なんて思ってたら。



「佐河、掃除?真面目じゃん」



後ろから声。



「る、琉島先輩っ」


キャーーーーーー。


ウソ!


今日は、朝から一度も先輩の姿を見かけられなかったのよ。


それが、なんでわざわざここまで?


このあとは委員会もあって顔も合わせるのに。


「先輩、どうしたんですか?」


「いや、今日の委員会なくなったんだ。それを言おうと思って」


「え。先輩、ひとりひとりにわざわざ言って回ってるんですかっ?」


「まさか」


カラカラ笑って。


「今、放送かけるよ。たださ、ここ通ったらたまたま佐河見つけたからさ」


髪をサラッとかき上げる。


うわぁ、あたしだけ直接先輩に言われたんだ?


なんか嬉しい。


えへへ。


「ずいぶん嬉しそうだな。委員会ないと」


「いえっ。そんなことないです。いつも楽しみにしてます!」


なんたって、唯一先輩と一緒に過ごせる貴重なひと時だもん。


「ウソつけ」


ポコン。


軽くこづかれた。


キャーーーーーー。


「じゃあな」


「あ、はいっ」


あたしは笑顔で手を振って。


先輩も軽く手を振って。


そのまま爽やかに歩いて行き、あたしも爽やかな笑顔で、全て爽やかに終わるーーー。


ハズだったのにっ。




突如、鉄平達が大騒ぎしながら、教室から廊下に飛び出してきたんだ。


うるさいなぁ(怒)と思いつつも、うっとり気分でふわふわの足取りのまま、あたしが再び掃除に戻ろうとしたその時だったの。


カンフーごっこだか、孫悟空ごっこだか知らないけど、鉄平がビュンビュン振り回していたモップの棒があたしの足元に飛んできて。


あたしは、うかつにもそのモップにツンとけっつまずいてしまったんだ。


「うわっ」


慌てて、前のめりになった体勢を整えようともがいても、時すでに遅し。


あたしはこともあろうが、あの憧れの琉島先輩の目の前で、物の見事にベシャッとすっ転んでしまったのである。



ウ……ソ。



あたしの中で、完全に時間が一時停止。


こ、転んじゃった……。


とんでもなくカッコ悪いってばっ!


かあああ。


あたしの顔がみるみる赤くなる。


しかも!!


それだけではなかったのだっ。


なんとっ!こともあろうが、制服のスカートが見事にぺローンとめくれており。


あたしのお尻は丸出し。


不覚にも廊下のど真ん中で。


それも、憧れの琉島先輩の前で、あたしはパンツ丸出しのちょーダサい姿をお披露目してしまったのだ。



「ピンクの水玉」



ぼっっ。


鉄平のボソッと言った言葉で、あたしの顔に一気に火かついた。


「なっ!!」


ハッと我に返ったあたしはガバッと起き上がり。


「な、なにやってんのよっ!!」



もぉーーーーーーーーっ!



バシン。


アイツの背中を思いっ切りぶっ叩いてやった。


「いてっ」


逃げるアイツに追うあたし。


「待ちなさいよっ。ちょっとっ!!」



バカ、バカ、バカ、バカ、バカ!!


信じらんない、信じらんないっ。


どうしてよりによって琉島先輩の前で、こんなことしてくれんのよぉーーーー!


鉄平のバカッ。


もう泣きそうなくらい恥ずかしいのに。



「仲いいんだな」



先輩ってばそう言って、にこっと笑って行ってしまったんだ。




最悪。


こんな恥ずかしい思いをした上に、先輩に鉄平と仲がいいだなんて勘違いされて。


もぉぉ……。


どうしてくれんのよぉーーーーっ。


「鉄平のバカ!」


で、口ゲンカが始まって。


あとは、ご存知のとおり……。






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