12

外はもう真っ暗で、空にはキレイな星が散りばめられている。


病院のすぐそばにある自然公園。


あたしとちとせは、公園のベンチに座って黙り込んでいた。


時計は、夜19時を回っている。


「……ちょっと待ってて」


ちとせはそう言って、どこかに走っていった。





「おまたせっ」


数分後、ちとせが戻ってきた。


「……どこ行ってたの?」


「ほいっ。肉まん」


ちとせの手には、温かい湯気を出している袋。


「あっちにセブンあったからさ」


「ちとせ……」


「……いつまでも落ち込んでちゃダメだなって思ってさ。奈々もあたしも。とりあえず、体あったまるから。食べよ」


ちとせの泣きそうな笑顔。


ちとせ……。


辛いのは、あたしだけじゃないよね……。


「……ありがとう」


あたしは、ちとせのあったかい優しさを感じながら、肉まんを受け取った。




「ーーーーーあたしね……。いつも鉄平が近くにいるのが、なんとなく当たり前みたいに思ってたんだよね……」


あったかくて美味しい肉まんを食べて、少し落ち着いた気持ちになったあたしは、ちとせに話しかけた。


「あの日。鉄平が事故に遭ったあの日。ちとせが電話でそのことを教えてくれる前……あたし、変な胸騒ぎがしてたんだ」


「胸騒ぎ……?」


「うん……。なんか胸がヒュンて冷たくなってさ。手に持ってたガラスのコップも落として割っちゃってね。なんかわかんないんだけど、すごくイヤな予感がしてたの」


あれはきっと……あたしだけに届いた鉄平からのサインだったのかもしれない。



「あたしとアイツは、ちょっとだけ特別なのかもしれない。でも、どこかでそれを当たり前だって思ってたところがあったっていうか……。だからあの日、鉄平にあんなこと言われて。ホントは、ちょっと……ううん、すごくショックだったのかもしれない」



そう、だからあんなに涙が出たんだ。


あたしは、なんだかすごく寂しかったんだ。


自分でも気づかないうちに、鉄平はあたしにとって大きな存在になっていたんだ。


「好きとか嫌いとか、そんなの考えたことなくて。ただ、絶対隣には鉄平がいるって。どこかで安心しきってたのかもしれない……」


黙って聞いてたちとせが、優しい口調でこう言った。



「あたしはさぁ、奈々は鉄平のことが好きなんだと思う。鉄平も同じ。奈々のことが好きなんだと思う。それは、恋愛の〝好き〟かもしれないし、そうじゃない〝好き〟なのかもしれない。どっちなのかはわからないけど、それでも大切な人なんだよ、お互いにとって」


「うん……。鉄平があたしのことをどう思ってるのかはわからないけど……。あたしにとって、鉄平は大切な人なんだ……って。今になってようやく気づいたような気がするよ……」


救急車のサイレンの音がすぐ近くで鳴っている。


「記憶のことだけど……。あたしもなんかで聞いたことあるんだけど。記憶喪失って、やっぱりいつどこでどうやって治るのかは、誰にもわかんないみたい。置かれた状況とか……なにかのきっかけとか……。その人によって違うんだろうね。きっと………」


ちとせが、病院の方を見ながら静かに言った。


「そう……なんだ」



ーーーーー誰だっけ?ーーーーーーーー



「……………」



鉄平の声が、耳の奥でまだ残っている。


「奈々、信じようよ。時間はかかるかもしれないけど、きっと元の鉄平に戻れる……って」


「ちとせ……」


「辛いけど……。ホントに辛いけどさ。森ハゲも言ってたでしょ。意識がなくても、あたし達の気持ちが届いて、きっとどこかで通じてるんだって……」


静かにあたしの頬を伝う涙。


「うん……」


あたしは小さくうなずいた。


「……さっきは、感情的になっちゃって。自分でも自分が止められなくて……。ごめんね……」


ちとせが優しくほほ笑んで首を横に振った。


あたしとちとせは、冷たい手と手をしっかりと握り合った。








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