25
「美味しい?」
じーーーーーー。
あたしは鉄平の顔を凝視。
「……おい、そんなにじーっと見るなよ。食えないじゃんか」
鉄平が、クッキーを持ったまま呆れ顔であたしを見た。
「あ、あははっ。そうだよね」
心配のあまり、つい。
だって、初めてクッキー作りに挑戦したから。
たまには気分転換に、鉄平に手作りのお菓子でも持って行こうかと思って。
ちょっとがんばって作ってみたんだ。
パク。
鉄平がぽいっと口に放り込んだ。
モグモグ。
「ど、どお?」
ドキドキ。
「ん」
えっ。
実は、ちょっと焼き過ぎちゃったかなーって思うところもありだったんだけど。
「ーーーーーうまいじゃん」
鉄平の優しい笑顔に、一瞬ドキッとした。
「あ……ホ、ホント?よかったぁ」
「うん、うまいよ。奈々も意外と女らしいとこあるんだな」
「意外は余計でしょー」
ホントにひと言多いんだから。
んべ。
あっかんべしてると。
鉄平が、いきなりあたしの左手を持ち上げた。
「な、なに?」
「ここ、ヤケド?」
うっかりオーブンにつけてしまった小さなヤケドの跡に気づいた鉄平。
「あ、うん。オーブンにつけちゃって……」
「ドジだなー」
なんとなくムッ。
「ドジですよ。どーせ」
「ウソだよ。一生懸命作ってくれてサンキュー」
すっ。
突然、鉄平があたしの左手を自分の口元にそっと当てたんだ。
なっ⁉︎
「な、な、なにっ⁉︎」
一気に心臓が爆発。
思わずあたしは、思いっ切り手を引っ込めてイスごと後ろにあとずさった。
「……ひっでぇーなー。そんなにイヤがることないだろー。オレは、ヤケドしながら一生懸命作ってくれた奈々の左手に感謝と敬意を表しただけだ」
「べ、別にイヤがったわけじゃないけどっ。いきなり鉄平がそんなことするから、ビ、ビックリするじゃんかっ」
「そっか。わりぃ」
「べ、別にいいけど」
ちょっとの間、沈黙が流れた。
すると、鉄平が静かに口を開いたんだ。
「……前に、奈々に言ったこと。覚えてる?」
え………?
「あれ、ホント」
いつの間にか、真剣な瞳の鉄平。
ドキンーーーーーー。
あたしの胸が大きく鳴った。
数秒間の沈黙のあと、鉄平はあたしにこう言ったんだ。
「オレ。奈々が好きだ」
えーーーーーーー……?
あたしの中で、一瞬時間が止まって。
頭が真っ白になった。
今のは、なにーーーー?
「ジョ、ジョーダンやめてよ鉄平。やだなぁ、もう」
あたしは動揺していた。
パニックになっている心を、必死でごまかしていた。
鉄平ってば、ど、どうかしてるよ、ホント。
「あ、そうだ、あたし飲み物買ってくるねっ」
財布をつかんでドアに手をかけた瞬間、呼び止められた。
「奈々っ」
ビクッ。
「な……なに?」
おそるおそる振り返ったあたしに向かって、鉄平がこう言ったんだ。
「オレ、おまえが好きだ。ジョーダンなんかじゃない……」
ドキン……ーーーーーー。
やだ。
いきなりそんなこと言わないで。
そんなこと言わないでっ……。
「ーーーーー帰る……」
あたしはカバンとコートをつかみ取ると、そのまま病室を飛び出した。
ウソでしょ?
鉄平、ウソでしょ?
からかわないで。
ドンッ。
前も見ずにがむしゃらに走っていたら、誰かにぶつかってしまった。
「いたっ……。あれ、奈々?」
え……?
「ちとせ……」
驚いた顔のちとせ。
「なに、どうしたのよ。そんな突っ走ってどこ行く気?」
「………………」
「ーーーーー鉄平となんかあったの?」
「………………」
あたしの動揺は、ちとせにもすぐに伝わってしまったみたい。
「奈々、黙ってちゃわかんないよ」
「……ちとせ、あたし、どしよう……」
ドキン、ドキン、ドキン。
まだフルスピードで心臓が鳴っている。
「奈々?」
「……好きだ……って言われたーーーーー」
鳩に豆鉄砲を食らったような顔をしてるちとせ。
「……どうしよう!」
あたしは、真っ白な頭のまま。
ちとせの胸にとびついた。
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