13

鉄平のことは、すぐに学校中に知れ渡った。



あんな悪ガキのくせに友達多いから、みんなホントにすごく心配してて。


そして、それと同時にみんなのショックも大きかったみたい。


クラスで森ハゲが鉄平のことをみんなに話した時、みんな声も出なかったの。


泣いてる人もいたし……。


それで、森ハゲがクラスのみんなにこう言ってくれたんだ。


お見舞いに行ってあげてほしいのはやまやまなんだけど、今みんなが行くと利久原も余計に混乱してしまうかもしれないから、しばらくの間は遠慮してほしい。


元気になったら、きちんとみんなにも知らせるからーーーーー……って。


最初からそばについていたあたし達には、『利久原に明るく接してやってくれ』って。


鉄平のおじさんとおばさんからも、そういうお願いがあったみたい。


森ハゲは、少し涙目のままあたし達の肩を優しく叩いてくれた。


あたしはこの時、クラスのみんなや森ハゲを見て思ったんだ。


鉄平の周りには、こんなに鉄平を想って心配してくれている人がたくさんいるんだって……。


鉄平って、悪ガキのくせにみんなに好かれて、自然といつもみんなの中心にいたよね。


イタズラ坊主で、よく森ハゲにも注意されて怒られてたよね。


あたしとも、ことあるごとにいつもケンカして。


くだらないことでギャーギャー騒いで。


でも、なんだかんだ言って、いつも近くにいていつも2人で笑ってたよね。



その鉄平は、今は病院のベッドの中ーーー。


しかも、鉄平にとって。


あたしは………今はもう、知らない人。






「佐河?」


ポンと肩を叩かれた。


「え?」


「委員会、もう終わったよ」


優しい笑顔。


「あ、琉島先輩。す、すみません。ボーッとしちゃって……」


周りを見たらもう誰もいなくて、最後のひとりが教室を出て行くところだった。


やだ、全然聞いてなかった。


いつ終わったのかも気づかないで。


あたしが慌てて机の上のペンやノートを片付けていると。


カタン。


え?


琉島先輩が、あたしの席の前のイスに座ったの。



「……大変だったな。利久原のこと……」


え……ーーーーー。


「先輩も知っててくれたんですね……」


「ああ。クラスにサッカー部だったヤツらもいてさ。利久原のことかわいがってたみたいで。みんな心配してたよ」


そっか……。


「なんか、少し痩せたんじゃないか?」


「え?そんなことないですよ」


憧れの琉島先輩が、あたしのことまで心配してくれる。


優しいなぁ、先輩は……。


あの日、すっ転んでパンツ丸見えのぶざまな姿を先輩に見られて、もう顔も合わせられない!とか思ってたけど。


鉄平の事故で、そんなこともふっとんじゃった。


なにより、先輩がなにもなかったかのようにいつもの優しい笑顔で笑いかけてくれるから。


ああ。


なんかすごくあったかい気持ちだ。


胸の鼓動が、トクントクンとゆっくり鳴り響いている。


放課後の教室に差し込む夕日。


キレイ………。


そんな中、またふっと鉄平の笑顔が浮かんだ。



「あたし……。鉄平になにもしてあげられないんです。ただ、鉄平の顔を見るたびに切なくなって、悲しくなって、泣きそうになって……。無力です……。あんなにいつも近くにいたのに。どうしていいのかわからなくて………」


早く元気になってほしい、元の鉄平に戻ってほしい、そう願ってるのに。


どうすることもできない自分がもどかしくて。


「鉄平が事故に遭う前、あたし達ケンカしてたんです。でも、鉄平はなんにも覚えてなくて……。ちゃんと……ちゃんと仲直りしたいんです。ホントの鉄平と………」


また喉の奥が熱くなる。


必死で涙を堪えていたら、ふと……あったかくて大きな先輩の手が、あたしの手をそっと包み込んだ。


えーーーーーー……。


「佐河が元気なくてどーすんだよ。それじゃ利久原も元気になれないぜ」


「先輩……」


優しい、だけど心強い笑顔。


「無力なんかじゃない。佐河が元気でいれば、それだけで利久原も元気になれる。佐河は持ってるよ。人を元気にしてあげられる力を」


人を元気にしてあげられる力……?


「いつも元気じゃん、佐河は。楽しそうに廊下を走り回ってたり。笑い声もよく聞こえてた」


「……………」


「それだけで周りが明るくなる。オレだってそんな佐河を見てると、自然と元気になるもんな」


ドキン……。


「先輩……」


ありがとう……。


あたし、元気出すから。


でも、今だけ泣いてもいいですよねーーー。


だって、嬉しい涙だから。


ほんの少しだけ。



今だけーーーーーー……。



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