14

「ホントにいいのぉ?キレイな髪なのにー」



大きな鏡に映る、ケープをかけられた自分の姿。


あたしの長い髪を、赤毛のお姉さんがブラシでとかしている。


日曜日。


あたしはひとり、美容室にやってきた。


もちろん、髪を切るためにーーーーーー。



「アゴまでじゃなくて、肩くらいにしとこっか?」


「いえ。バッサリ切って下さい」


あたしは迷いなくハッキリと言った。


今日、あたしが髪を切りに来た理由。


それはね。


あたしの中で一大決心がついたからなの。



そう、〝一大決心〟ーーーーーーーー。



「いいねー。その思い切り。うん、顔もちっちゃくてカワイイから、たぶん似合うよぉ」


パサン。


ハサミが入って、あたしの長い髪の毛が床に落ちていった。






「ちとせー。ごめんね、待たせちゃって!」


あたしは、軽やかに病院のロビーに駆け込んだ。


「大丈夫、今来たとこ……」


くるっと振り向いたちとせは、あたしを見て目を丸くした。


「奈々っ⁉︎どーしたのっ⁉︎その髪!」


かなり驚いてる様子。


「へへ。どう?」


「ビックリしたけど、似合ってる。すっごいカワイイ!でも、急にどうしたの……?」


あたしは、耳元で揺れる切り立ての髪を触りながら、ちとせの隣に座った。


「ちとせ、あたし決心したの」


「え?」


「鉄平と、ゼロからスタートするーーーーーって」


そう決めたの、あたし。



「鉄平が今までのこと忘れちゃって……。自分のことも、あたし達のことも忘れちゃったんならそれでいい。そっから始めればいいって。そう思うことにしたの。そう決めたの」


「奈々……」


「鉄平にとって、全てが知らないもので知らない人で……。どっか知らない遠い世界に迷い込んでるんだよ、きっと。……自分が誰なのかもわからなくて、いちばん辛い想いをしているのは、きっと鉄平だと思うんだ」


辛いよね……。


「だからね。鉄平にとって、あたしは初めて見る人ーーー。だけど、鉄平の味方の人ーーー。それでいいと思ってさ。いつか記憶が戻るまで、あたしがんばることにした」


心機一転でバッサリ切った髪。


「奈々……。えらい!あたしも一緒に応援するよっ。がんばるよっ」


「うん!」



そして、スタートしたんだ。


あたしと鉄平との、


新しい日々がーーーーーーーーー。




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