8
「奈々、大丈夫……?」
目を開けると、真っ白な天井が見えた。
鉄平の笑顔が、まだぼんやりかすんでいる。
………あ。
「て、鉄平は⁉︎どこっ⁉︎」
ガバッ。
あたしは、かけられている布団を引っ剥がした。
「落ち着いて。奈々、気を失って倒れたの……。だから、もうしばらく休んでて」
ちとせが、優しく布団をかけ直してくれた。
「え……」
お姉ちゃんとお母さんとお父さん、それにてつやもいる。
「あたし……。ずっと気を失っていたの……?」
「そうよ。さ、もう少し休みなさい」
お母さんの声。
あたしは、知らない間に病院の診察室のベッドの上にいた。
「……鉄平はっ?大丈夫なのっ?」
「ーーーーーこの病院にいる。さっき手術が終わって。今、ICUに入ってる」
てつやがうつむいたまま言った。
ICU……?
「無事なんでしょ?助かったんでしょっ?」
あたしは、てつやの腕をつかんで問いただした。
「……一応、手術は成功したって」
曇り空のようなてつやの表情。
「一応って……。どういうこと……?」
「アイツ。かなり強く頭を打ったみたいなんだ。まだ予断を許さない状態らしい……」
「ーーーーーーーーー」
鉄平……ーーーーーーー。
言葉が出ず。
あたしは、静かにうつむいた。
ガコン。
「飲めよ」
目の前にある自販機で買ったホットココアを、てつやがあたしとちとせに差し出してくれた。
「……ありがとう」
ロビーの壁時計は、もう夜の21時半を回っていた。
お母さん達も鉄平のことを心配してたんだけど、とりあえずこのまま病院に残るのは、あたしとちとせとてつやの3人ということで、先に帰ってもらった。
もちろん、ちとせとてつやの両親にも連絡をしてある。
なにもできないけど、少しでも鉄平のそばにいたいと思った。
「奈々……大丈夫?」
「あ、うん。ごめんね、迷惑かけちゃって……」
まさか、自分が気を失うなんて。
思ってもみなかったよ。
でも……診察室のベッドで眠っていた間、ずっと鉄平の夢をみていたの。
笑ってる鉄平の夢を………。
コクン。
甘くてあったかいココアを飲んだら、少しだけ落ち着いた気分になった。
「ーーーーーー信じられないよな。まさか、こんなことになるなんてな……」
てつやがうつむいたままポツリと言った。
「ねぇ……。なにがあったの?どういう事故だったの……?」
ちとせが静かに切り出した。
ちとせの質問に、てつやが小さく肩を落としながら口を開いた。
「……コンビにの前の横断歩道が青になって。鉄平が先に渡り出したんだ。オレは、まだ店を出たばっかりでさ……。その時、いきなり車が赤信号なのに突っ込んできて。アイツがはねられた。アイツは、悪くない……」
「ーーーーーーーー」
あたしもちとせも、言葉が出なかった。
アスファルトに流れていた赤い血が、鮮明に蘇る。
鉄平の痛みが、あたしにも伝わってくるようだった。
「……悪いのは向こうだぜ⁉︎鉄平はちゃんと青になって渡ったんだよっ。鉄平はなんにも悪くねぇんだよ!なのに、なんでこんな目に……!!」
てつやの肩が震えていた。
泣かないで……てつや。
「てつや……」
泣かないで………。
3人の目からこぼれた涙は、暗いロビーの冷たい床に落ちて消えていった。
神様、どうか鉄平を助けて下さい。
もう……二度と、いなくなっちゃえばいいなんて言いません。
ホントは……とってもいいヤツなんです。
あたしの幼なじみなんです。
あたしの大切な人なんです。
どうか、鉄平を助けて下さい。
暗い夜の下で。
あたしはぎゅっと目を閉じたーーーーーー。
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