その13 森で上の空です!
「今日は、2人には森に行ってもらおうかね。」
私たちがお手伝いする染め物屋のリーダー、カシーナさんは顔を見るなりそう言った。
お屋敷を作ることになってから2週間、なんとかそれぞれの染め物屋で融通しあっていた染料の花の備蓄が底をつきかけているらしい。
どの染め物屋もみんな急いで採集に向かっているとか。
それで取ってきたのをみんなで融通しあうんだって。取りに行くのはそれぞれの最終の縄張りみたいなのがあるから、それだけは自分たちでやるらしい。
大変なんだね。
父さんの手伝いをしたときは薬屋はうちしかいないからそんなの考えないでいろんなとこで採ってたのに。
「一番たくさん採ってきてほしいのがこのアワムラサキっていう花ね。それからこのシキブの実。余裕があったり群生地を見かけたら他の花も採ってきてちょうだい。でも他の花は先に行ったグループに伝えてあるからあんまり欲張らなくても大丈夫よ。アワムラサキとシキブの実だけはたっぷり採ってきてちょうだいね。」
アワムラサキは本当に小さい青い花だ。
背も低くて、地面にくっつくようにして咲いていることが多い。
シキブの実は低めの木にたくさん実がついているのを見たことが確かあった気がする。
えっと、どこでだっけ。
「それじゃ、気を付けていってらっしゃい!アワムラサキはこっちの袋、シキブの実はこの籠に採ってきておくれ。」
「ええ、カシーナさん。行ってきます。ソフィア、行くよ。」
「あ、あ、うん。行ってきます。カシーナさん。」
うーん、どこで見たんだっけなぁ。
「それにしても見つからないねぇ」
「うーん、そうだね」
「ねえ、ソフィア、私の話聞いてないでしょ?あと、シキブの実探すふりして雲見てるのバレてるんだからね!」
「あ、いや、ごめんごめん」
ずっと考え事してただけなんだけど。
「ねえ、そろそろ一回休憩にしない?」
「そうだね、歩くの疲れた。森の泉のとこ行こうよ。あそこなら水筒の水もとれるし」
「そうね、もうそろそろ飲み切っちゃいそうだし、そうしよ。」
森の中をアワムラサキとシキブの実を探しながら歩く。泉の場所は小さいころからずっと遊びまわっていたから迷わず行ける。
「あ、ねえソフィア、あそこちょっとわたれないんじゃない?」
少し歩いて手前の小川のところまで来たとき、ヴィネーラが指さした。
そこには、いつも使っていた小川を渡る橋代わりの木が無残に折れた跡が。
もうぽっきり行ってるし、近くには渡せる木も無い。
「んー、ちょっとここは渡れないねぇ。水ならここでもいいし、ここで休憩する?」
「それならもうちょっと川の上の方に行けばいい感じになってるところあるからそこに行こうよ」
「ん、じゃあそこにしよ。」
ヴィネーラの後をついていくと、ちょっと歩いただけでほんの少しだけ、木がなくて落ち着けそうな場所があった。
適当な切り株に腰かけて、空を見る。森の緑に縁どられた空がきれいな青をしていた。
「それにしても見つからないねぇ。どんな場所にあるのかとか全然分かんないから探すに探せないし。」
「うーん」
あとちょっとで思い出せる気がするんだけどなぁ。
結局、その日はまた歩き出したところで合流したグループの人たちが見つけたアワムラサキとシキブの実の場所に案内してもらって採集して帰った。
「疲れたね。」
「うん、疲れた。」
思い出せないのって、こんなに気持ちも疲れるんだなぁなんてことを考えながらヴィネーラとおしゃべりして家に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます