その12 無邪気な約束

「じゃあ、つまりお偉いさんが来るの?この街に?」

「みたいだねぇ」

村長の森の解禁宣言の後、いかにもなお偉いさんたちが長々とお話をしてくれた。寒い。

なんでこんな寒い時につまらないお話ぐだぐだしてくれるんだろうね?

全然ありがたくないよ。寒い寒い。こっちはもうお肉食べ終わって待ってるの。

「にしても南の方はまだまだあの風邪流行ってるんだな」

「もうこっちの方はほとんどないもんね。」

「ねー、ほんとに良かったよねぇ、元気になって」


本当に良かった。

あの日、いきなり消毒のことが分かった時は自分でも理解できなくて驚いたけど、こうやって役に立って良かった。

近所で罹っていた人達の家族が洗濯と掃除で家を綺麗にしたことで持ち直してくれた。

それを見た他の罹った人のいる家族が次々に真似するようになったおかげで流行はすぐに終わった。何人かは手遅れだったけど、それでも元気になった人の数は増えた。

もちろん、流行が終わる時期と洗濯が流行った時期が重なったからだとは思うけど。

自分のやったことはそんなにすごいことじゃない。ただ、水を使っていたのをお湯にしたり、しっかり乾くまで日向に干したりするようにしただけだ。

もちろん、いきなり分かるようになったことも誰にも言っていない。私がちゃんと説明できないのに誰かに伝えても、きっと信じてもらえないだろうし。自分でもまだどこか信じてないし。

一瞬、洗濯の仕方が神様の恩恵みたいな感じに勘違いされかけて、私がすごいみたいな感じの騒ぎも起きたりしたけど、ちゃんと子供の思い付きですって説明して母さんになんとかしてもらった。みんなそんなことより汚れが綺麗になることに夢中ですぐ忘れられたけど。


「南の奴らはよわっちいんだろうな!俺たちと違って!」

「もう、あんまりそういうこと言わない方がいいよ、ねえソフィア。」

「あ、あ、うん?」

「ねえ、話聞いてなかったでしょ、もー。」

「まあ、王族ってことは国の一番偉い人たちだろ?その人たちが逃げてくるってことはよっぽどひどいんだろうな。」

「やっぱよわっちいんじゃねえか!」

「ちょっと!もう!」

ヴィネーラがちらちらと周りを確認しながらぷりぷりと怒る。

さっきから、ちょっとだけ視線を感じる。

それも、いつもの慣れた人たちではない視線。

いつも見かけない人ってことは、多分その人たちがさっきのお偉いさんの周りの人なんだろうな。

「そろそろだまっとけマーリン。商人なら分かるだろ。」

「あ?……ああ、そういうことか。わりぃな。」


「ねえ、洗礼式の前の日にこっちに着くってさあ、つまりその日までに新しい家を用意しろってことでしょ?」

「まあ、そういうことだろうな」

えっと、洗礼式まであと2か月なかったような……?

「洗礼式まであと2か月もねえのにどうやってでっかい家を何個も用意しろってんだよ。」

「木材も乾燥させてる時間はなさそうだから、在庫でどうにかしないといけないかもね。」

「え、でもミェーチの家の在庫、あとどれくらいあるの?」

「んー、大きい家だとひとつとちょっとあるかないかって感じかなぁ。」

「お前んちの木材がそれだけじゃ、ほかの木こりのとこもほとんど無いだろうな。」

ミェーチの家はこのあたりで一番木材倉庫が大きい。

なんでも、お父さんの腕がいいから木を木材にして不良品があんまりでないからなんだって。倉庫に置いておいて、途中で割れたり折れたりしにくいらしい。

「じゃあ、あんまり遊んでられない感じだねぇ」

「まあそうだろうな。」

「なんか、遊べる日には思いっきり遊ぼうね。」

もう、1日中遊びまわれる日は少ないのだ。それにお偉いさんのための準備もあるとなれば、多分、一緒に遊べる日はそう多くない。

「もう動けないってなるまで遊ぼう!」

「ソフィアが一番に言いそうだな。」

「うん、ソフィアがもうむりーって言ってマーリンにおんぶしてもらうんでしょ。」

「そんなことないもん、なんでそんなに笑ってるのヴィネーラ~!」

「ぜってーおんぶはしねえからな!」

ひとしきり笑い転げた後は、皆すっきりした顔でそれぞれの家に帰っていった。

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