その20 ・・・・・・見つかりました!

「これで間違いはないね。彼女か、彼女の父親がこの街の風邪を祓った人物だ。」

ソフィアが帰ると、メディチはにこにこと満足そうにつぶやく。

親はこの街唯一の薬屋、そして彼女自身は魔法が台頭するまで最強の恩恵と呼ばれた知識の箱。これで流行り病を祓う方法はほとんどつかめたようなものだ。

後はその方法を彼女たちから聞き出すのみ。それを折を見て王都に残った者たちに伝えればいいだろう。邪魔になる者たちを病が蹂躙した後にでもその情報を送ればうまく取り巻きの厚さを増すことが出来る。手を汚すことも証拠が残ることもない。

偶然とは言え、楽で素晴らしい運命の巡りだ。


「彼女を学校へ通わせるというのは親を呼ぶための口実ですか。」

シリウスが水晶のペンを棚にしまいながら問いかける。

ああ、そうだ褒美のことも考えなければな。


「それももちろん考えているよ。ただ、今度の学校は貴族だけじゃ足りないからね。」

流行り病のために南では多くの人が死んでいる。それは貴族でも例外ではなく、この冬にいくつもの家が当主を失うなどして取り潰しになった。今は仮の役人を送って土地を治めさせているが、どうにか貴族を増やして手広く治めさせなければならない。もちろん、邪魔者は排除した後に。混沌は整備すべきだ。


「学校には、生徒がいなければいけないだろう?」


明るく伝えるが、シリウスは眉間にしわを寄せたまま無言を返した。

まあ、そうだろうな。


「今度の学校は、貴族だけでなく平民でも優秀なものを通わせる。卒業後、貴族となる人材を増やすためだ。だから、学校の中では貴賤は無い。そうしないと、君と同じような環境で誰もが勉強に集中できなるわけじゃないからね。それに、貴賤が卒業後に逆転したりしたら、色々やりにくいだろう?」


シリウスは、貴族学校にお付きとして入学して、自分の知らないところで結構面倒なことをされていた。決闘は仕える家に迷惑をかけるわけにいかないから、成績で勝負するように仕向けて、こてんぱんにしていたけど。仕えの者が全ての学年で首席を取るのは今でも密かな伝説になっているらしい。強かでいいやつだ。


それに、一旦今の勢力図を白紙にしないと国を治めるのに面倒がたくさん出てくる。母校は、勉強は形ばかりで貴族の駆け引きの場になっているのが煩わしい。建前上親は出てこないが、家で色々なことを言い含められてくるので結局は子供を駒にした社交場に過ぎない。そこをどうにか綺麗に均す手間を考えると、新しく作ったほうが色々楽だ。

学校を今よりも北に作って流行り病から子供だけでも逃す、という理由をつければ規則に色々文句はあっても、今の学校から籍を移すのもやぶさかではないだろう。


「シリウス、これから僕が王になるために一番いい方法を取ることが、この国を永らえさせるために必要なことなんだ。」

「ええ。」

「それから、家の周りに虫が付かないように、虫よけの手配を頼むよ。」

「御意。」


「肉を切らせて骨を断つような、苦しいことはしたくないんだけどねぇ。」

外には冷たい雨が降り始めていた。

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