その7 親の心子知らず、子の心親知らず……?

「か、母さん?」

 洗濯物を取り込んでくると、母さんがパンの籠を抱えたまま固まっていた。

「え、えっと?」

「……これ、ソフィア一人でやったの?」

「え、うん。お湯でつけ置きして洗って。あ、ごめん、出しっぱなしで。」

「こんなにきれいになるなんて……」

「母さん?」


 母さんがうわ言のように呟いている。

 パンの籠を、もったまま。


「ちょっと待って。とりあえずほら、籠置きなよ。」


 シーツ他をベッドに仮置きして食器を片付ける。

 あ、そういえば食器棚の中掃除してないや。入れる前に拭きたいから端に寄せるだけにして……。


「母さん?」


 やっと籠を置いた母さんが私の頬に両手を当てて不思議そうにのぞき込む。


「どうしてこんなにいきなり色々思いつくようになったのかしらねぇ。」

「……いや、そんなことを言われても。」


 眉が下がった困り顔で見つめられても困ります、母さん。


「私は、なんとなくこうしないと気持ち悪いから、とか、こうしたらもっと良くなるんじゃないかって思ったことを試してるだけだから……。」

「そうよねぇ。不思議よねぇ。」


 確かに自分でも今までだったらきっとやってなかっただろうな、ってことをやってる気はするけど。

今まではお湯で洗うことも、消毒とかだめになった藁の抜き取りとか考えたこともなかった。


「もしかすると、洗礼式の前なのに神様が間違えたのかもしれないわねぇ」

「え?」


 どういうこと?

「ほら、ちょっと早めだけど、恩恵を授けちゃったのかしらって思ったのよ。母さんと同じ家政の恩恵だったらこれくらいできてもおかしくないでしょ?」

「いや、でも母さんより出来るなんてことはあり得ないから……。」


 なぜかびっくりされるくらいできてるけど。

あと、もし選べるなら家政より剣術と弓術が欲しい。

そうすれば森に採集に行ってなにかあってもどうにか出来そうじゃない?


「青は藍より出でて藍より青しって言葉知らない?ソフィアはまだ染め物の手伝いしてないっけ?」

「うん、まだだけど。」


 でもなんとなく意味は分かる気がする。

「染め物のね、青い布を作るときに藍っていう植物を使うのね。その植物の色より染まった布の青の方が美しいことをそうやって言うの。人だと、教える人より教わった人の方がよく出来るときのことを言うのよ。つまり、ソフィアはきっとそういうことなのよ」


 えー……。なんかもっとかっこいいのが良かったんだけどなぁ。

 母さんはもうすでに一人で盛り上がってるし……。


「と、とりあえず食器棚の中拭いてから食器片すね」

「あらそう?」

「ほら、埃があるとせっかくあらったのに付いちゃうでしょ」

「う~ん、さすが家政の恩恵ねぇ」

「だから違うってばぁ」


「おーい、帰ったぞ。……すまん、家を間違えた」

「あー、父さんお帰り!あってるよ!」


 そしてまた同じ会話が繰り返されましたとさ。


 ……私はもっと強い恩恵が欲しいのに~‼

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