その41 解呪

「とりあえず、まず頭のところにある呪術を解呪させてもらうわね。」

部屋に案内され、必要なものを次々に運び込まれた後は手慣れた様子でお茶の用意だけしてお付きの人たちは部屋を出ていった。

「大丈夫。今は人払いしてあるし、のぞき見されたり聞かれたりしないように何重にも結界張ってあるから安心して。」

「え、ええ。」

「という訳でとりあえず説明の前に一応昨日出た症状を聞かせて。めまい、悪夢、吐き気、熱のだるさあたりだと思うけどそれ以外はある?」

「人に会いたくない位の気持ちの落ち込みはあったと思います。」

「……うん、わかった。じゃあ、とりあえずそこに用意したお茶飲んで気分を落ち着けて。」


そういうとポットからとぽとぽと優しい色あいのお茶をつがれた。ほんのりハーブとはちみつの甘味があっておいしい。薬湯はなかなか飲めなかったのに、これはするりと飲めてしまって、おかわりももらってしまった。


「ふふ、落ち着いた?飲めるくらいの元気はあるみたいで良かった。」

そう言うと、しばらく持ち込んだ荷物をゴソゴソといじっていたルース様はいくつかの紙と石を持って隣に座った。

「あのね、あなたの症状はさっき言った通り呪術によるものなの。」

どうやら私は知らないうちに頭に呪術を仕掛けられていたらしい。

「前に貴族に囲まれたって言ってた時あったでしょう。その時にかけられたんだと思う。」

呪術というのは魔法が技術として発達する前にあったもので、基本的にあまり良い物ではないらしい。今回の体調不良を引き起こすものだったし。

「解呪しながらどんな呪術なのかをみていくから、少しの間目をつぶってそこの椅子に深くもたれかかっていてほしいの。そう。もっと体の力を抜いて。ああ、このクッションでも抱いているといいわ。」

「こう、ですか。」

「うん、それでいい。はい、息を吸ってー、吐いてー、もっと呼吸を楽に。吸ってー、吐いてー。」


目をつぶっているから何をしているのかは分からない。おでこに当てられた石がひんやりして気持ちがいい。ひんやりとしながら、頭の奥の、靄のようなものを吸い取ってくれるような気がする。

ああ、ルース様が何か言っているけど、なんなんだろう。

頭がふわりと軽く楽になった。一気に何かが体をめぐって、ぽかぽかして気持ちいい。

ああ、この前お泊りしたときのお布団に入ってるみたいだ。


「ソフィア、ソフィアってば。」

「え、あれ。え、ルースちゃん?」

「あーもう。びっくりした。途中で寝ちゃうんだもん。解呪終わったよ。説明するから座って。」

そっか、終わったんだ。

「ちょっとね、思ったよりひどかったからお父様とお母様にも話さないといけないんだけど、とりあえずまずソフィアに話すね。」

「うん。」

まだちょっとぼうっとする頭のまま、生返事をする。

「あー、待って。ソフィアあなた頭ぼうっとしてるでしょ。ちょっと待って。」

部屋の隅の棚からルースちゃんは飲み物を取り出してくれた。

「わ、冷たい。」

「さっきのお茶の冷やしたものよ。さっぱりするから、ゆっくりでいいから飲んで。私も飲もうかな。」

ルースちゃんの持ってきたものは私の物とはまた違った。

「ああ、ソフィアのははちみつ入りだから黄緑で、私のはハイビスカスが入ってるから赤いの。この色綺麗でしょ?私好きなのよね、この水色。」

「はあ。」

冷たいのとか、色味が違うお茶とか、その入れ物の透き通っていることとか、色々と気になることが多い。頭が追いつかないなあ。


「じゃあ、本題だけど。さっき解呪した呪術は、長期的に生命力を奪って対象を傀儡にすることが出来る呪術でした。まず最初に対象を体調不良にさせて魔力を削り、削りきった後は魔力がない状態で生命維持だけは行うって感じの物ね。」

つうっと冷たいものが背中を流れた。

「え、じゃあ、私、殺され」

「うん、殺されて人形になるところだった。間に合ってよかったよ、ほんと。」

頭が恐怖でくらくらする。

「あ、そんなに怖がらなくていいよ。だって、もうあなたは私のお付きの薬師見習いとして国に保護されているから。それに、お父様とお母様に許可をもらってからだけど、ソフィアに手を出したおバカさんにはきっちりお返しするからね。」

まずは回復薬を作ってそれを反転させてーとのんきにしているルースちゃん。

「私は、私はどうすればいいの。なにもしないわけにはいかないでしょ?」

「あ、もしかして何かしてた方が気がまぎれる?じゃあ作ってもらおうかな。下克上の為の猛毒のお薬!」

あれ、なんかつついちゃいけない藪だった?あれれー⁉

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