その40 くらくらします。

起きたときの気分の悪さは言葉にできないほどだった。

頭は割れるように痛いし、めまいがする。熱は無いのに体はだるく、起き上がるのもやっとだった。父さんが薬湯を、母さんがパンを入れたスープを用意してくれたけれど、いつものようには効果が出ない。むしろ、気持ち悪くなって戻してしまった。

「ごめん、せっかく用意してくれたのに……。」

もうすぐに冬になるから、食糧はどんどん貴重になるし、身体もはやく戻しておかないといけないのに。

「なに、ソフィアはちょっと頑張りすぎだ。良くなるまでは、休むのが仕事だよ。」

「そう、まだ洗礼式終わったけど子供なんだからここは父さんと母さんに任せなさい。婦人会で声をかけたら皆冬支度手伝ってくれるからなんにも心配しなくて大丈夫よ。」

「薬も冬の在庫はそこそこあるんだ。採集も狩りにいくチビたちに薬草の絵を渡して同じのを持ってきたら小遣い稼ぎになるっつったら喜んで持ってったからな。モノの確保も大丈夫だろ。」

「そっか。ありがと。」

「とりあえずなんにも考えなくていいからゆっくりしろ。元気になるのが一番だ。」

「そうそう。ああ、お昼はもうお鍋にできてるから食べられそうなら食べて。無理そうなら父さんの薬湯があるからそれだけ飲んどきなさい。」

「うん。」

「じゃ、行ってくるから。ほら、早くしないと。」

「ああ、じゃあちゃんと寝てろよ。」

父さんと母さんはササッと片付けると冬支度と店に出かけてしまった。

さっきも気分が悪くて起きたから、眠れないと思っていたのに、気が付けば夢も見ないで眠っていた。


その後、気が付くと私は乗り慣れた馬車に父さんと母さんと共に乗せられていた。


「え、あれ。」

「ああ、起きたか。ちょっと色々あったみたいでな。家族全員で王様に呼び出された。着くまであとちょっと寝てろ。」

「う、うん。……えぇっ!」

「ふふふ、大丈夫よ。それにしてもお屋敷はどんなところなのかしらねぇ。この座っている所もすごいふかふかで気持ちいいわぁ。」

「え、えと、あの」

「いいから寝てろ。少しでも体を休めておけ。」

「お昼のお薬飲んでないでしょう。一応持ってきたから、お湯を頂けたら飲めるわねぇ。」

なんでこうなってるの。なにか説明が欲しい……。



そうこうしてお屋敷に着くと、ニコニコのルースちゃん、いやルース様とそのお父さんらしき人、多分王様がいる部屋に通された。もちろん、王妃様もいる。

「よく来てくれた。いつもルースから話は聞いている。まあ、楽にして話を聞いてくれ。」

挨拶もそこそこに寄りかかれるようになっている椅子が用意され、母さんがお湯を頼んで薬湯を作ってくれた。滑らかな毛布もあてがわれて、ちびちびと薬湯を飲みながら恐縮してしまう。だって王様王妃様の前ですよ?

皆さんとてもやさしくて、話をしながらでも具合がさらに悪くならないように気を配ってくれた。

「では今日から私どもが皆さまのこの街での健康を御守りすればよろしいのですね。」

「まあ、そう気張らずとも好い。こちらが連れてきた薬師とも良いようにしてくれ。」

「もちろんお部屋もこちらで用意しますから、その点も安心してくださいな。」

「あり難き幸せに存じます。」

「ソフィアは早く治して私といっぱいお話する係だよ!」

「ほら、ルース。」

「だって楽しみなんだもん!」

話はつまり、私たち家族がこの街でのお抱え薬師になるということらしい。

平民でお抱え薬師になるのは初めてらしいけど、ここはうちしか薬屋がないから特例らしい。

「店にある薬草はこちらに持ってくるといい。調薬の出来る部屋も用意させてある。」

「はっ、ありがたき幸せ。」

「そろそろ身体が辛いのでは?ひとまずここまでにして後はそれぞれで話をつけましょう。」

「そうだな。」

「じゃあ私ソフィアのお部屋案内するー!」

「こら、ルース。きちんと作法を守りなさい。」

「だってもういいんでしょ?ねえ、これは向こうの部屋まで運んで。ソフィア、少し歩ける?」

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