その39 頭を抱えます。

ソフィアの話を聞いたルースは完全に頭を抱えていた。

「全くもって面倒なことばかりやらかしてくれたわね……。」

メディチ家は平民の薬屋にいたずらにちょっかいをかけただけだと言っているけれど。

平民からすれば医者のいないこの街で唯一の薬屋にちょっかいをかけられることは街の人たちの生死にすらかかわる可能性がある事を理解していない。

平民はほとんどが魔力操作が拙いので治癒魔法が使えない。

となると、なにか病気やケガになったときには昔ながらの薬草で薬を用意して癒すしかないわけで。

しかも病気やケガはそのまま収入に直結するので一大事だ。

それをあのおバカたちは自分たちのプライドとかいうものの為にいたずらに手を出したわけで……。

「これじゃあこの街での貴族の印象が良くないわね……。いや、もう南から大挙してきたところからかしら……。」

流行り病が今年も猛威を振るうならば本格的に遷都も考えるとお父様はおっしゃっていた。ということはここの町の人たちへの印象を良くしておくに越したことはないわけで……。

「それからソフィア様の事ですけれど、先だってからの慢性的な寝不足や過重労働に加え、炎狼の襲撃の手当の際の惨状を看護しなければならなかったこと、またその際に名も知らぬ貴族からの暴力・脅迫があったことから精神的な支障が出ることが想定されます。」

「ああ、そうだった。ねえ、こちらに強制的に呼び寄せて保護か看病する手はずは整えられる?」

「すでに。」

「じゃあ、明日の朝には向かわせて。早ければ今日の夜から症状が出るはずだから。」

ただでさえ、周りの思っている以上に繊細な面がある彼女だ。

昨日は気を張っていたようで、なんとか普通を装っていたようだけれど、それでもふとした折に限界が見え隠れしていた。

多分、今頃体調悪化と感情の渦に飲み込まれて苦しい思いをしているだろう。

いや、緊張が解けていなければまだなんとかやり過ごせるか……。

それにしても時間の問題だけれど。


「ねえ、マカロンが食べたいわ。時間が掛かってもいいから焼きたてにしてちょうだい。」

「かしこまりました。明日の朝でよろしいでしょうか。」

「ええ、もう遅いもの。竃の火はきちんと消しておいてね。」

「畏まりました。おやすみなさいませ。」


王族であるけれど私は結界魔法を重複してかけられるから夜に完全な人払いが出来る。

魔法が他人より使えて良かった。

「まずはソフィアを保護して、回復させつつ知識を悪用されないようにその保護も考えないといけないなあ……。」

なんでこんなに私が気を遣わないといけないのか。

「私はまだソフィアたちと同じ10歳そこそこなのになあ」

貴族というのは、本当に早熟で、そして未熟なものだと、ルースはひとりごちながら夜更けまでこれからの対応策を書き上げていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る