その42 レシピの改変
その後私たち家族は、この街での王族のお抱え薬師の一族として、正式なお屋敷と服の支給がされた。お父さんの希望で街の薬屋は毎日ではないけど続けることになった。なんか護衛の人が付くって言ってて、ちょっと嫌がっていたけど。
前のとの違いはよく分かんないけど、ルースちゃん曰くもっと良くなったらしい。
そして今日も私はルースちゃんの部屋に呼ばれて、ふかふかの椅子に座っていた。
もう、今までの椅子に戻れなくなりそうだ。この生活が終わってしまったらと思うと怖い。
「ああ、えっとね、これがこの前言っていた下克上用猛毒レシピね。あ、でもこれ自体には毒性はないから安心して。今までにも何度か作られているレシピを高度な魔力操作なしで再現するようにちょっと改変しただけだから。魔力による変質が必要なところは魔石に込めた魔力で代用したり、そもそも変質しなくてもいいように材料を見直してみたの。これならそんなに魔法が使えなくてもできると思うよ。」
ルースちゃんは今日も天真爛漫だ。冷静な言葉も、無邪気なトーンで言われるとなんというか、すごく飲み込みやすくなってしまう。
「……本当にこのレシピ作っていいの?私の知識が正しければこれ不死の薬、だよね。」
ルースちゃんが見せてくれた本に、伝説級の薬師が作ったと書かれていたレシピ。
その改良版のメモが、いま私の手元にある。
「ええ、大丈夫。どちらかというと魔法の使用無しでのレシピ再現ができるかの実験みたいなところがあるから成功でも失敗でも問題ないの。気軽にやってちょうだい。薬はできてもできなくても万々歳。まあ、延べ3日かかることだから気軽ともなんとも言えないけど。」
そう、今私は暇つぶしにと、ルースちゃんの部屋にあった本の中から書き抜きしたレシピとその材料をもらっている。
平民の私には知らされることのないはずだったレシピとその材料。心躍るはずのものだけど、どこかで怖気づいてしまう。だって、薬ってすごく貴重なものも使うからね。
「大丈夫よ。もうあなたの住む場所に馬鹿な貴族の厄介は入れないようにしてあるし、その厄介もこの後無力化されるから。」
「うん、そっか。」
うん、そうじゃないんだけど。
「それに期限は無いから、出来ると思ったらやればいいわ。」
「うん。」
それは仕事だからすぐに取り掛かるので大丈夫だと思いますけど。
作った後は、猛毒に変換されるかもしれない不死の薬。
街の薬屋として今まで通り生きていれば、こんなことを考えなくて良かったのかもしれない。
いや、そんなことはないか。
あくまで薬は体にとって異物。父さんに何度も口酸っぱく言われてきた。
いつだって、薬を作る立場なら同じだ。
きっと父さん見たいに自分で処方するようになった時に考えただろうな。
「ああ、その薬は私の私物で作るから、特に無駄にしちゃったとか考えなくていいかから。それよりソフィアが楽しく、いや楽しくはないかもしれないけど、なんというか今までの調子を戻すための練習だと思ってやってくれればいいわ。もし分かんないことがあったら私も答えるし、この前使い方を教えた恩恵を試してみるもよし。そこらへんにある本も読みたければ読んでいい。ただ一つ。あなたは病み上がりだし、無自覚に無理するから休息をわすれないこと。いーい?」
「うん。」
「じゃあ、私はちょっと森に行ってやりたいことがあるから出かけるわね。」
そう言うとルースちゃんはささっとローブを着て、窓からすいっといなくなってしまった。
今日も本当に身軽な人だ。
よし、私も部屋に戻ろう。
籠にレシピと材料をぴっちり詰めて、重いのか軽いのか分からない足取りで自分の部屋に戻った。
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