その43 もやの中

薬を作っている時間は、自分が思っていた以上に楽しくて最近の嫌な出来事を頭から振り払うことが出来た。

順序を追って、ひたすらに手を動かす。

少しずつ、自分の手の中で材料が薬に姿形を変えていく。

不純物を取り除いて、どこまでもきれいな1滴を材料から取り出すことがこんなに楽しいなんて。

無心になって目の前の物に集中することは、とてつもない心の解放になった。



「だから言ったよね私。ちゃんと休憩もとりなさいって。」


その分、げっそりしてしまって、ルースちゃんに怒られることになったのだけど。


「ごめんなさい、ルースちゃん。でも、本当に言った通り、薬を作っている間だけは嫌なことを忘れられたの。だから、」

「分かった、みなまで言わないで。」


ルースちゃんはそう言うと、すこし眉を寄せ、きゅっと形のいい唇をかんだ。


「意識のないうちに慰み者になったくらいどうってことないです。呪術で殺されそうになっていたとは言え、いま命があるだけで、平民の私にはもったいないくらいに幸せだわ。それに王家の薬師に仮ではあるとはいえ家族が」


「黙って!!」


ルースちゃんは急に大声でそう言うとポロポロと泣き出してしまった。


「あなたは悔しくないの、そうやってずっと踏みつけにされて、命までもてあそばれて、それで、それで……っ」

「なんで、どうして泣くのですか。どうして、どうしてそんなに」


分からない。いつもの明るくて、無邪気で、でもどこか冷静なルースちゃんはどこに行ってしまったのか。

おねがい、笑っていてください。


「何がお気に触ったのか、私にはわかりません。……申し訳ありません、私は、本当に昔からぼうっとしている悪い癖があるもので」

「そうやって、そうやってなんでも卑下するのが嫌なの‼なんで、なんでそんなに才覚があるのに分からないの……なんで……なんで違いすぎるよ……」


怒りながら唇をあまりに強く噛んだために、ほんのりと赤が滲む口元はとても美しく思えて、きっとそんなことを思うのは間違っているんだろうと思いながらも私は頭を下げ続けた。


その後、ルースちゃんは気が滅入ってしまったようなので早々にお暇して、父さんの手伝いを少ししながら体を休めた。



それから数日間、ついに私は魔法を使わないで不死の薬を再現することに成功したのです。

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