その44 冬のおわり
魔法を使わない再現に成功した私は、国王陛下やその周りの人たちの強い勧めで薬師院に通うための試験を受けることになった。
前に偉い人たちが言っていた学校とはちがって、本当に薬のことをとことん勉強できる所だという。
正直、もう父さんから色々な薬のことは教わっているし、本を読めたことで分かったこともたくさんあるから、もう父さんから店を継いだらおとなしくして静かな町のこじんまりした薬屋でいようと思っていたのだけど。父さんも母さんも、私が少しでも仕事を離れてゆっくりできるならと後押ししてくれた。
「それで、学校は前期2年後期2年の4年制。受験資格は特になし。合否は筆記試験と実技試験で決まるの。まあ、自分の生まれが裕福か、薬屋でもないと大体薬の勉強なんてできないから生徒は大方貴族と薬屋の子供。時たま薬師に近い恩恵を得た人も来るけれど、どの場合にも最初の2年で半分くらい減るわ。試験で点がとれなかったり、貴族でないと金銭的に生活できなくなってしまってということも少なくない。ああ、ソフィアの場合はもうお父様に教育の経費として用意してもらったから心配しないで。とりあえずあなたは試験に合格することだけ考えればいいわ。」
そう説明しながらルースちゃんは分厚い紙の束をぼんと机に置いた。
「とりあえずうちにある使えそうな本の内容をまとめておいたからそれに目を通しておいて。そうね、今お昼だから今日中に。それで明日どれくらい理解しているか確認して。もう冬も終わりだから、春の試験までに出来るだけのサポートはするわ。」
「はい。」
「といっても、この前のを成功させた時点でもう実技の方は十分すぎるから、筆記の対策に集中していいと思うわ。基本持ち込みはなしだから、分かるところと不安なところのふるい分けが明日までに終わってるとうれしい。分かりにくいところはしるしをつけておいて。あ、あとその紙、今までのとは違う植物の紙なの。書き心地の感想ももらえるとうれしいわ。」
ずっしりとした紙の束と、インクとペンは、どこ私の背負うもののような気がして、なぜかちょっと怖いと思った。
「ああ、そういえばあなたの家族に家事のお手伝いをつけたけど、なにか不便なこととかない?あの子読み書きできないからそのうち教えようと思ってるんだけど、なかなかそっちまで手が回らなくて。」
「いえ、すごく母さんが喜んでました。お料理も私より向いてるかもしれないし、話をしていても良く聞いてくれて楽しいって。ありがとうございます。」
「あの子は孤児だったからね。居場所が出来て良かったわ。」
「はい。」
もし、本当にこの冬に勉強が出来て、春に薬師院に行くことになったらこの街を出ないといけないかもしれない。
そうなったら母さんも父さんも寂しがるだろうから、新しくお手伝いの子が入ってきてくれてよかった。
まあ、そもそも試験に合格できるかどうかも分からないし、普通にここにずっといるかもしれないんだけどね。
ああ、雪の冷たさも好きだけど早く春にならないかな。
見渡す限り真っ白な世界は、ちょっともう飽きちゃった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます