その18 呼ばれて飛び出て……え~っと?
街の人たちが突貫で建てた屋敷の一室。王都の屋敷に比べれば幾分質素ながら丁寧な仕事がなされた椅子に座る一人の男が手遊びしながらつぶやく。
「北は魔力が少ない者が多いのでまさかこれを使うとは思いませんでしたが。」
その手に乗せられた、上級の水晶のペン。
昼間に使用したものとは違い煌びやかな彫模様がすき間なく施されている。
「やはり見立て通りだな。」
先ほどの男よりも上質な服を着た男が満足そうに答えた。
「ならば……いえ、一人特異がいたとはいえ、やはり魔力枯渇は近いのでしょうか。」
「まだ確実には言えないが、おそらく近いのだろうな。」
そしてそれはほぼ確実にこの国の衰退の始まりでもある。
にやりと上がった口角を戻した男は、窓辺により、空を鋭く見つめた。
魔力に頼りきって技術を捨てたこの国は、今まさにそれに見捨てられようとしている。
そうすれば、我らが捨てた技術を魔法と共に育ててきた周辺国による蹂躙は避けられない。
周りを山に囲まれ、唯一の玄関は海であるが、それでも油断はできない。全盛期のように国全体に結界を張る魔力のない今、陸路を断てる地形であっても水中や空を渡って攻め込まれればひとたまりも無いだろう。
「あの少女の恩恵がきっと国の未来にも関わるんだろうな」
「御冗談を。」
そろそろ件の少女がこの屋敷に現れるはずだ。
流行り病が消えた街に、魔力をほとんど持たない平民でありながら強い恩恵を受けた少女。
国の歴史が根本から何か変わりそうな強烈な危機感と、そしてそれを楽しみに思う気持ちが男の口角をきゅっと持ち上げる。
「そろそろ来る頃か。」
「ええ、間もなくかと。」
「楽しむこととしよう。」
男はドアを開けさせると、応接室へと足を運んだ。
***
「ごめんください。例の件でお伺いしました。ソフィアです。」
皆が頑張ったお屋敷は、自分の家よりも、村長の家よりもずっと大きくて綺麗だった。
玄関で出迎えてくれた人も、服が新しいのか、とってもきれい。
「どうぞこちらへ。」
連れていかれるまでの廊下には、今まで見たことのない綺麗な布が壁に掛けられている。
ドアも、彫り物が綺麗にされている。ずいぶん凝ったものなのに、ごてごてしていやらしくない。やっぱり王族ってすごいんだなぁ。
「この奥でございます。」
きょろきょろしながら連れていかれたのは多分奥の方の部屋。何回も角を曲がったからね。途中布だけじゃなくてお花も飾ってあった。家に帰ったら欠けちゃったコップで真似しよう。
「お客様をお連れしました。」
「入れ。」
「どうぞ。」
ドアを開けて道を譲られた。
どうやらここからは一人で入るらしい。
「あ、えっと、ありがとうございました。」
部屋に入るとさっきの人は入らず、扉が閉められる。
そこにはニコニコとしながら目の笑っていないお偉いさんが、オオカミみたいな冷たい眼をしたお付きの人と一緒に待っていた。
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