その30 王族とお友達になります……!

「それであなたが友人にあげたのがきっかけでこんなに流行ったのね?」

「はい、恐れ入ります。」

どうしてこうなった。

昨日結局2ページ読まないうちに眠ってしまって、気が付けば朝になっていた。鳥の声がうるさくて起きると父さんが顔色を変えてお屋敷から呼び出しがかかったと伝えに来た。急いで身なりを整えてメディチさんの本を片手に向かうと、そこにはメディチさんだけでなく、本物の王族がいた。

「決めたわ、ねえ、ソフィア。友達になりましょう。」

「えっ、なっ」

王族と私が友達?今日まだ顔を合わせてまだ数分ですよ?

しかも平民と王族ですよ?

街の大店の子供でもない、ただの小さな薬屋の平民なんですよ?

「ル、ルース様、彼女は貴族ではありません。平民に対してそのようなことは」

「あら、いいじゃない。どうせこの後出来る学校で私と同級生になるんでしょう?お友達になるのがちょっと早まるだけの話だわ。」

いつも優雅で余裕のあるメディチさんが振り回されてる。このお嬢様、すごいかも。

いや、かもじゃなくて本当にすごいのか。王族だし。やんごとなき、だっけ。

「ねえ、ソフィア。せっかくだからお茶にしましょ。こんな所じゃ邪魔ばっかり入って楽しくおしゃべりできないわ。シリウス、私の人にお茶の用意をさせてちょうだい。お茶は私とソフィアの二人だけでいいわ。メディチ、奥の庭は使わせてもらうわよ。さ、ソフィア行きましょう。」

わがままお嬢様はテキパキと指示を出すと上座の椅子からひょいと下りて私の方へと歩いてくる。ぐいっと手を引かれて庭に出ると、庭を移動するための手押し車が用意されていて、あれよあれよという間に奥の庭に運ばれていった。


「あー肩凝った。ねえ、ソフィア今だけは私の事王族じゃなくてただのルースとして扱ってちょうだい。私はね、本当の友達が欲しいの。おべっかは貴族だけでおなか一杯だわ。」

さすが王族のお姫様。無茶なことをおっしゃる。

「しかし……」

「ここでは皆目をつぶってくれるから大丈夫。もしこの屋敷の誰かに見咎められたら、平民なので作法がまだ分からなくてって言えば大丈夫よ。幼子の馬鹿なフリでかわせるくらいの無能しかいないもの。」

……何だろう、この子、本当に私と同じ年なんだろうか。私も本をたくさん読ませてもらったりして、あとお茶の流行で鬼のような忙しさを経験してちょっと大人びてきたと言われることもあったけど、この子のそれは、絶対的に何かが違う気がする。

「それにしてもカモミールとミントはハーブティーの鉄板の組み合わせよね。私もよくやってたわ。」

そう言って、それからあっと気が付いたように口をつぐむルース様。

「ルース様も薬に詳しいのですか?」

「もう、ただの友達って言ったでしょ?私はルース。ルース様じゃないの!」

ぷぅっと膨れて抗議する姿が愛らしい。ふくふくとした頬っぺたは触ったら気持ちがよさそうだ。

「分かりました。えっと……ルース、ちゃんは薬は詳しいんですか?」

まだ敬語が抜けてない、と呟くものの、ルースちゃん呼びが気に入ったらしい。ほっぺがピンクになって本当にかわいらしい。

「昔読んだ本に書いてあったの。疲れを取って、元気にする組み合わせだって。今のあなたにピッタリかもね。」

クマがひどいもの、と言って笑うルースちゃんにお付きの方がお茶と焼きたてのお菓子を運んできてくれた。なぜか私の前にもきれいなカップが置かれる。

「さあ、お茶も用意が整ったところだし、たっくさんおしゃべりしましょ!女子会はお菓子がないとね!」

そういうと彼女はお菓子をつまむトングを持ち、どれがいい?と私に問いかけるのだった。

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