その31 裏の思惑を読みます……!
そのころ、あっさりお茶会からはじき出されてしまったメディチは執務室でイラつきを隠せずにいた。離れ庭とはいえ、自分の屋敷の自分から見えぬところに王族の方々がいるのは気が気でない。もし、何かの拍子であの部屋の事が王族の方々に分かったら、もしあの書類の束に目を付けられたら。
無意識のうちにコツコツと爪が机をはじく。
大丈夫だ。抜かりはない。
それにしても。
ふう、と執務室の窓を見る。
もうすっかり秋の空になっていた。
それにしてもあの小娘はまったく手間をかけさせる。
今日は本を持たせて、それを返しに来させ、そこで盗みだと摘発すればすぐに王族に対し手柄を立てることが出来たというのに。そうすればこんなにもじりじりと待つ時間もなく次の事を考えることが出来たものを。
あの王族の小娘の我が儘のせいでつい追及の機会を失った。
お茶の後お帰りになる前に必ず指摘してお褒め頂かなくては。
なにせ、あれは――
***
小さなふわふわのお菓子を食べながら、私たちは色々な話をした。
「ねぇ、その本はあなたのものなの?」
「いえ、メディチ様が貸してくださったんです。私がなかなか書庫に伺えないのを気遣ってくださったみたいで。私の友達に届けさせてくれたんです。」
私なんか平民ですから、こんなに貴重なものを持てるはずもありません。
そもそも私が本を持っていたら、その本を売ったお金で父さんと母さんにもっといい暮らしをさせてあげていると思います。
ヴィネーラみたいに刺繍が得意とか、ミェーチみたいに木彫りが得意だったらそれを生かしてお小遣い稼ぎできただろうけど、私はそういうのないし。
「へぇ、じゃあその本はメディチがソフィアの友達を介してソフィアに貸し出したのね。」
私が説明すると、ルースちゃんはまるで周りの人に言い聞かせるように大きな声でそう言った。
「ねぇ、その子ってどんな子?あなたの記憶、少しだけ覗いてもいい?私、王族だから堅苦しいお友達ばっかりで、普通のお友達を見てみたいの!」
「あ、え?あ、はい」
そういうが早いか、ルースちゃんが私のおでこにぴと、とおでこをくっつけた。
そして、ふっと戻って私との間に手のひらを差し出すと小さく再現、と呟いた。
空中に私にヴィネーラが本を持ってきてくれたときの様子がふわり、と映し出される。
鞄から布に包まれた本を取り出すヴィネーラ。
貸してくださったと伝える声。
何もかもがあの時のそのままだった。
「すごい。」
ルースちゃんも一瞬驚いたような顔をしたけど、その後安心したような、それでいてちょっといたずらを思い付いたような不敵な顔をしていた。
「へぇ、こんな感じなのね。ありがと。ヴィネーラちゃんもいい子ね。」
「あ、え、そうなんです。いつも色々やってくれて。すごい頼りになって。」
「そうなんだ。再現できて良かった。あなたもヴィネーラちゃんも友達思いの良い子ね。」
私もソフィアとそんな風になりたいわ、と言ってお菓子を食べるルースちゃんはどこか儚い感じがして、少し寂しそうだった。
「これから仲良くなりましょう。私でよければ。」
気が付けば、出過ぎたことをいっていた。それでもルースちゃんは嬉しかったようで、ほころんだ笑顔を見せてくれる。
「ええ、ソフィア。ね、このお菓子もおいしいわよ。」
満面の笑みのルースちゃんはさっきのふわふわのお菓子を食べ終えて、また違うお菓子を自分と私のお皿に乗せてくれた。これはマカロンというらしい。
それから何回かお菓子とお茶をおかわりして、色々なたわいない話をした。
あまりに打ち解けて、お互いに今日が初対面なのをすっかり忘れるくらいだった。
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