その3 正解は、煮沸消毒!

 家に帰ると、母さんは服のほつれを繕っているところだった。

「母さん、いまから全部洗うから!」

 もうなんというか、気が付くとすべてをどうにか洗いたくて仕方ない。なんでって言われたらなんでかうまく言えないけど洗いたい。風邪は治ったけど、このままじゃいけないって本能的なのが私に言ってる。

「あらあら、どうしたの。たらいは小屋にあるし、いいけど、シーツも服も1か月前に洗ったじゃない」

「えっ1か月前⁉」

「ええ」

「ほ、ほら、私風邪ひいたから、もし病気のもとが残ってたらいけないから洗いたいの。洗ってくるね!」

 1か月前?1か月前って言った?うそでしょ?そんなに洗ってなかったなんて。そりゃだめだよ。弱ってるときにそんなに不潔にしたところにいたらさらに弱っちゃう。シーツとあるだけの着替えを持って外の洗い場に出る。洗剤はないから水だけだけど、とりあえずお湯で殺菌しよう。煮沸消毒だけでも気分はましになる。大丈夫。

 井戸水を汲んで、たらいに水を張ったら、火の生活魔法で起こして沸騰させる。火を丸くして水に投げ込んだらお湯が簡単にできた。私天才かも。

 何回か火を投げ込んで沸騰させたら、その中にシーツを入れる。近くにあった棒を綺麗にして押し洗いすると、すごい汚れが落ちていく。何度か水を入れ替えながら押し洗いすると、茶けたシーツはごく薄いベージュに生まれ変わった。どんだけ汚れてたの、うそでしょ。

 シーツを木の枝に張ったロープにかけて乾かしている間に着替えの服も洗う。もちろんロープも洗ってから使うよ。土となにかよくわかんない汚れまみれになってたから。洗濯用のはずなんだけど。

 たらい3つを全部使って、ロープ、シーツ、着替えを全部綺麗に煮沸消毒する。みんな茶色だと今まで思っていたけど、シーツも着替えの服も生成りだったよ。びっくりだよ。

 思わず残ったお湯で洗濯場の掃除もしたよ。みんなこの小屋のもので洗濯するって思ったらやっぱりきれいな方が良いからね。たらいもちゃんと壁に立てかけて、乾きやすいように。残りのロープも見つけたからついでに洗っておいた。ああ、すっきりした。


 今日は風があったから結構乾くのは早かった。しっかり絞ってから干したのもあって、シーツは小屋の掃除が終わるころにはほとんど乾いていた。やっぱり寒いからこの時期は洗濯する人はいない。というか、なかなかみんな洗濯をしないから洗濯小屋を使う人はいない。そもそも風邪が流行っているから出歩いている人がいつも以上にいないんだよね。

 乾くまで、はためく洗濯物と流れる雲を眺めて過ごした。やっぱり雲が流れるのを見るのっていいなぁ。

 すっかり乾いた洗濯物を持って家に帰ると、母さんがすごく手の心配をしてくれた。

「大丈夫、生活魔法でお湯にして洗ったから、全然辛くなかったよ。それにほとんど木の棒でかき混ぜてたし。」

「そう?本当に大丈夫なのね?」

「大丈夫だって。それにこんなにきれいになったの。明日みんなの分も洗うね」

 ほら、とすっかりきれいになった洗濯物を見せる。多分今までの洗濯で一番きれいになった。

「まぁ、なんでこんなにきれいになったの?すごい、さすがソフィアね。やっぱりすごく時間をかけて手洗いしたんじゃないの?」

「だからお湯で洗ってみたらすごくすっきり落ちたんだってば。それにほとんど木の棒でかき混ぜてるだけだから手は大丈夫。」

「そう、ならいいわ。明日は一緒にやりましょうね。」

「うん、そうする。今日も飲み水は沸かしておいて。」

「もう沸かしてあるわよ。置いてらっしゃい。ご飯にするから。」

「さすが母さん。」

 さっぱりしたシーツを敷いたベッドは、思っていた以上に満足がいくものだった。

 寝るときは新しく洗濯した服に着替えて、汚れないようにする。母さんは不思議そうにしていたけれど、やっぱり気になりだすととことん気になってくるのだ。明日は洗濯が終わったら部屋の掃除もしたいな。その日の寝心地は、とってもいいものだった。

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