その4 父さん、汚しすぎです!

「じゃあ、今日は父さんと母さんのシーツを洗って、その後枕もできたらって感じかな」

「お昼は朝に少し多めに作っておいたから、準備は気にしなくても大丈夫よ。これを運べばいいのね」


 昨日帰ってきた父さんが、私のシーツのきれいさに羨ましそうにしていたので、まずは父さんと母さんのシーツから洗うことになった。

その後にみんなの替えの服と、台所で使うふきん一式。お昼はスープを温めるだけと言っていたから、ぎりぎりまで洗濯を進めよう。


「じゃあ、まず三つのたらいのうちひとつに洗濯物をまとめて、ふたつに水を張って」

 母さんが水を汲んでくれる間にロープをあるだけ小屋から出す。

今日も人通りは少ないし、全部使っても多分大丈夫。

途中で誰か来たら一緒に洗えばいいし。多分来ないけど。


「ソフィアできたわよ」

「ありがと母さん」

 たらいに張ってもらった水を沸かすと片方にロープ、もう片方にシーツを入れてぎゅうぎゅうと押し洗いする。


「あー、母さんの分の棒がないや。えっと、」

「棒ならなんでもいいのね?」

「あ、うん、こうやってかき混ぜられれば」

 そう言うと小屋から折れた竿のような棒を持ってきた。

「これ、竿が折れて使い物にならなくて困ってたのよ。いい長さで良かったわ。」

 あ、そうなんだ。いつも洗濯はまかせっきりだったから知らなかった。


 ロープを先に洗い終えて木の間に張る。

その後はざぶざぶと洗ったシーツを次々干して、また服を洗って、と繰り返していった。

シーツは汚れの年季が入っていたので私のものより10回もお湯を変えて洗った。

父さん、汚しすぎ。


「もう腕がぱんぱん。疲れた。」

 途中までは母さんもこんなに汚れが落ちるなんてとか、近所の人たちに教えなきゃとか楽しそうだったけれど、全部の洗濯が終わったころには無言に。ちーん。


疲れた。


「なんとか終わったし、お昼にしましょうか。ソフィアも疲れたでしょう。」

「うん、ありがとう。こんなに疲れるとは思わなかったよ。」


 こんなに時間が掛かったのは大体父さんの洗濯物のせいだ。

もっとこまめに洗濯するように言おう。

せめて取り換えてくれれば洗えるから、取り換えてくれればいいんだけど、すごい不精だからなぁ。

薬以外のことは本当にお構いなしだから、ちょっと困る。



 頑張った後のお昼の豆のスープはいつもよりおいしい気がした。

この後、母さんは婦人会に行くらしい。洗濯の話もするって。


みんなが綺麗にするようになったら風邪の予防にもいいから、ちゃんと細かく説明できるように一度おさらいみたいなこともした。

まず、洗って干すための道具をきちんと綺麗にしてから始めること。

お水を生活魔法か竃でぐつぐつに沸かしてからそのお湯で洗うこと。

何度もお湯を変えて、お湯が汚れなくなるまでしっかり洗ったら、お日様に当ててよく乾かすこと。

本当は洗剤とか石鹸があればいいんだけど、うちにはないし、代用できそうな方法があったら聞いてきてほしいと伝えた。


「それにしても、ソフィアったらいつのまにこんなに賢くなったのね。ずっとお空ばかり見て、ちょっと不思議だとは思っていたけれど。」

 母さんがふふっと笑う。


「え、そうかな」

「だって、いきなりこんなにきれいになる洗濯の方法を思いついちゃうんだもの。びっくりよ。」

「うーん、思いついたっていうか、なんていうか」


 自分でもなんでこんな風にするようになったかって、よくわかんないんだよね。

でも、このままの状態じゃまずいことが分かったから対応する方法を考えただけというか。


「それにしてもこんなにきれいな服を着ていったらみんなになんて言われちゃうかしら。ふふっ、早く食べちゃいなさい。冷めるわよ。」


さっきまであんなに疲れていたのに、ご飯を食べたらもう元気だ。

母さんすごい。


「ちゃんとお湯をぐつぐつまで沸かすの忘れないでね。あと、やけどしないように棒でかき混ぜるのも。」

「大丈夫よ、先に行くわね。」

「うん、行ってらっしゃい」


 母さんはさっさと食べ終わると弾むような足取りで婦人会に出かけていった。

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