その6 母さんはやり手でした!

 それにしても、今日はどこから掃除しよう。

 自分の部屋と、父さん母さんの部屋、みんなで集まる部屋。


 いや、三択だけど、迷うよね。

 台所で思わぬ時間を使ったから、母さんが帰ってくるまでにと思ったら出来て1ヶ所だ。


 とりあえず父さんと母さんの部屋は勝手に掃除するのはなんか嫌だからなしとして、自分の部屋か、みんなのリビングか。

 自分の部屋はやるなら徹底的にやりたいし、時間もないから……これはリビング一択でしたね。うん。


 ひとまず窓を開けて床を掃除するのに家具を寄せ……無理。

 とりあえず椅子をどけて出来るところだけやろう。

 見えるところだけでもやればだいぶ雰囲気的にきれいになるから。

 あ、そうだ。昨日寝るときに、枕とベッドの下の詰め物の藁でだめになっているのを抜き取ったやつが束にしておいてあるから、それを濡らしてちぎって撒いたら砂とか埃が少しはまとまりやすくなるかも。

気になって抜き始めたら止まらなくて、ちょっとベッドの端っこぼこぼこになっちゃったんだよね。後で直さないと。


 濡らした藁をちぎっては撒き、ちぎっては撒き、一周したら箒で藁ごと玄関の外に掃き出す。

 一応また乾けば種火を移すのとかに使えるかもしれないからひとまとめにして風でちらばらないとこに放置。掃き掃除の後は雑巾がけと窓の掃除、と思っていたところで母さんが帰ってきた。

「あ、母さんお帰り。婦人会どうだった?」

 出来立てのパンをかごいっぱいに抱えた母さんはほくほく顔だ。

「それがね、ソフィアの洗濯のことを話したらみんな大喜びで大変だったのよ~。その分たっぷりパンをもらってきたの。情報料、っていうのよ。」

 おお、さすが。いつも婦人会では一緒にパンを焼いて家族の人数割で持ち帰るのが決まってるけど、今日はいままでにないくらいたくさんある。これ6人分くらいあるんじゃない?

「こんなにいっぱいすごいね。しかも白パンまで!」

「そうなの!みんな洗濯の話で大盛り上がりでね、お祝いだって言ってちょっとだけ作ったのよ、ふふふっ。」

 白パンが、白パンが目の前にある!

 誰かの誕生日とかお祭りの時しか食べられないあの白パンが目の前にある!

 嬉しい!嬉しいけどこんな洗濯の仕方ひとつで白パン食べられちゃっていいのかな?いいのかな?遠慮はしないよ?いいの?ほんとにいいのね?うっひょーい!わーい!

「今度の婦人会の時にね、もしよければみんなにソフィアに教えてもらえないかって話もしたのよ。やっぱり私が話すだけより、実際にみんなでやってみた方がいいって言って。」

「え、そうなの?でも特に同じこというだけだし……」

「何回も水を変えたりするでしょ?どれくらいの塩梅かとかいろいろ気になることがあるじゃない。それに、どうせやるならみんなでおしゃべりして交代しながらの方が楽しいでしょ?」

 あ、なるほど、みんな楽で楽しい方法が欲しいのね。

 確かに昨日のあれはしんどかったもんね。父さんのとか父さんのとか父さんのとか。

 どうして父さんのだけあんなに汚れが頑固なんだか。


「でも、婦人会みんなでってことは結構な人数でしょ?洗い場でやるには狭すぎるよ」

「じゃあ、近くの川べりでやればいいんじゃない?水を汲んでいる間に手が空いた人で手ごろな干しやすい木を探せば干場にも困らないわよ。あ、お昼も持っていけばそこで食べられるわね。持ち運ぶならパンがいいかしら。みんなにも相談しないと!」

 なるほど。歩いてちょっといったところの川でみんなでやるのね。それなら水も場所も大丈夫かも。でもそんなに大掛かりにやるのかぁ、そっかぁ。

「じゃあ、それで決まりね。明日みんなに言って回らないと。」

「そうだね。」

「じゃあ、そろそろ寝る準備をしましょうか。パンを置いてくるわね」

「うん。……あー、洗濯物干しっぱなし!シーツ冷たくなっちゃう‼」

 掃除に夢中になってすっかり忘れてた。もう日が暮れるからひんやりと冷えているだろう。

 急いで取り込みに行って帰ってくると、台所で母さんが、あまりに綺麗になったことに驚いて固まっていた。

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