その16 洗礼式、眠いです!

「それでは、これより洗礼式式次第を説明する。今年は王都より、王族の皆様方が特別にこの街にいらっしゃっていることは皆もよく知っていることだろう。よって、今年は特別に、王族の方よりご挨拶を頂いた後、恩恵享受の儀を行う。皆の者静粛にせよ!」


 やっと訪れた洗礼式の日。広場でみんなが集まっていた。


 今年は王族の人たちが挨拶をするというある意味一大イベントがあるので、街のほとんどの人たちが広場に押しかけていた。

いつもは子供とその親くらいしかいないものなんだけど。


「皆、良く集まってくれた。我らの急な申し出でもあるにかかわらず、素晴らしい出迎えをしてくれたことに感謝する。今日は子供たちのための素晴らしい祝いの日だ。この街すべての子供に神の恵みがあらんことを。この街がより素晴らしいものになることを我らは願っている。」


 あー、眠い。

座ってると、お日様が良い感じにぽかぽかして、お偉いさんのながーいお話が良い感じの子守歌になって……ぐう。


「それでは、これより、恩恵享受の儀を行う。子供たちは前へ。」

「ちょっと、ソフィア、起きて。」

 背中をぱしぱしと叩かれて、慌てて立ち上がる。いつのまにかお偉いさんのお話は終わったようだ。あー、少し寝たらすっきりした。


 恩恵確認の儀は、そんなに難しいことは無かった。

 子どもはただ、差し出された水晶のペンを握っていればいいだけ。

 なんか偉い人が呪文をぶつぶつ言うと、そのペンが勝手に動いて、空中に光の文字が書かれていく。

ただ、その文字は水晶のペンを持っている本人とぶつぶつ言ってた偉い人にしか見えないので、それを読んでもらって、隣で待っている村長に報告する。

私たちは文字あんまり読めないからね。

そうするとその恩恵で出来る仕事がいくつか後で教えられるから、その中から見習いに出る仕事先を自分で選ぶらしい。


「なんか、すごい何か書かれてるのか分かんないけどきらきらして綺麗だね。」


 最初に水晶のペンを持った子の様子を見ながら、順番待ちの列に並ぶ。

 光の文字は、偉い人が何かを言うとそのままキラキラと溶けて消えてしまう。

 なんかすごい綺麗だった。


「これを持ちなさい。」


 順番はすぐに回ってきて、水晶のペンを持つ。

 ふわふわと光がペン先に集まるけれど、一向に文字を書き出す気配がない。

 あれ?目の前で偉い人もなんか怪訝な顔をしているんだけど。


「君、一度ペンを置きなさい。」

「はい」


 もう一度ペンを持ち直して再度偉い人がもごもごし始める。

 今度はきちんと文字が現れる。


『ソフィア 測定不可』


「えっ」

「なんと」


 測定不可ってどういうこと。

 お偉いさんもちょっと口がぽっかん空いてるんだけど。

「えー、んんん。そなたの名前はソフィアと言ったな。」

「え、あ、はい。」

「後で屋敷に来なさい。行ってよし。」

「え、えっと。はい。」


 なんか咳払いでごまかしたよね。しかも後でお屋敷に行くって、なんかちょっとめんどくさいことになりそうで嫌なんですけど。

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