その15 思わぬお休みです
それから瞬く間に日は流れて、今日は洗礼式の1週間前。
「それじゃあ、後は私たちに任せて、あんたたちは存分に遊んできなさい。」
いつも通り染め物屋に行った私たちはカシーナさんからの言葉に固まった。
「え、でもまだ縫い合わせとか色々あるじゃないですか」
「そんなの大人に任せて子供は遊んでていいのよ~」
「そうそう、そもそも洗礼式の前にこんなに仕事をさせるのがおかしいんだから」
「私たちなら二人が遊んでても大丈夫な腕はもってるって知ってるでしょ?」
慌てて応えようとすると、カシーナさんの後ろの作業台で針を動かす熟練のお母さんたちからの援護射撃が来た。
強い。
「というわけで、今日はあんたたちの仕事はなし。今まで我慢してた分、存分に遊んできな!」
「あ、そうそう、もし遊んでるときに染め用の花があったら摘んでらっしゃい。お小遣い上げるわよ。」
「そういえばうちのジャムも切れそうだったわねぇ。誰かベリー代わりに摘んできてくれないかしら?」
「最近よく晴れてるから日向ぼっこが気持ちよさそうねぇ」
なるほど、そういう感じですか。
「じゃあ、日向ぼっこしながらベリーと染め用のお花を摘んできますね!ヴィネーラ、行こ!」
「え、あ、ちょっと!」
そこまでお膳立てされちゃあ、乗らない方が悪い。
今日は心行くまで森を楽しむんだ‼
「そういえば、ヴィネーラは結局プレゼント用意できたの?」
「ううん、一緒にいたんだから分かるでしょ?」
森に向かう最中、道端のベリーをつまみながらゆっくり歩く。
ベリーは見つかるけど、ほかのお目当てはまだまだ先だ。
「染め用の花で一番良いのをヴィネーラが使うとして、私の欲しい薬草はまだあるかなぁ」
「あれ、なんだっけ?」
「スノードロップってやつ。」
「ああ、雪解けの時に咲くって言ってた花ね。もう雪は解けちゃってるからねぇ。」
そう。本来の予定なら森が解禁されてからすぐ、丁度雪解けの時期に摘みに行く予定だったのが、お屋敷のあれこれでずいぶん時期がずれてしまった。
「森の奥の方行けば少しは雪が残ってるところとかないかなぁ。」
「あんまり無茶はできないからね。今日はミェーチとマーリンいないんだから。」
「うん、わかってるって」
とりあえず、スノードロップは保留だなぁ。
そうしたら、今の時期採れる薬草何があったっけ。
「ひとまず先に私の染め用の花を探すわよ。ソフィアのことだから、先に私のやっとかないと染め用の花、全然取れなくなっちゃう。」
それから染め物屋でお母さんたちから教わった場所を順繰り回って、籠にこんもりと染め用の花を摘んだ。
回った場所のいくつかの近くにベリーの群生地があったので、そこでも籠にこんもり。
それから摘みたての実をひょいひょいと口の中に。
摘んですぐに食べると、いつもより甘い気がしてすごく幸せな気持ちになる。
森に摘みに行った人だけの特権だ。
お昼用に持ってきたパンをかじりながら私とヴィネーラはベリーの甘さに心行くまで舌鼓を打った。
それから結局スノードロップもその代わりになる薬草も見つからないまま、2人はこんもりとベリーと花の入った籠を持って帰ることになったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます