目覚める前兆

試験

ついに、試験が始まる。

綺麗な机が人数分並んでいて、そこに筆記用具と数枚の用紙が置かれている。

周りを見渡してみると、想像はしていたけど、王都で育ったんだろうなって感じのすごく頭のよさそうな子ばかり。なんか頭よさそうだし、着てる服も、全然違う。

出発前にあたらしくした服がしおらしく見えるくらい、なんだか皆の服がぴかぴかして、どことなく心が折れそうになる。それに、周りの私の事を言う声がうるさい。

そりゃ、うちはお金持ちの家じゃないから少しは違うの着てるよ。でもそんなのは頭の良さには関係しないはず。ヴィネーラが綺麗に仕上げてくれた、袖口の刺繍を指でなぞってなんとか落ち着こうとするけど、やっぱり心臓のばくばくする音と、自分の息がやけに大きく響いて聞こえる。

「大丈夫、大丈夫。」

女の子なのにこんな試験受けるとか、王都でもないところの平民がとか言われても実力で認めさせればいい。

震える手だって、力を籠めれば大丈夫。

ルースちゃんにはそう言われたし、そのための力をつけてもらった。

胸に手を当てて深呼吸すると、服の下に小さなペンダントの感触が確かにある。

大丈夫。私ならできる。

街でみんなが応援してくれたし、私はそのための力をつけてきた。


間もなく時間になり、しゃべっていた人たちもそわそわと自分の席につき始める。

強面の男の人が前で全員の着席を確認すると、小さな杖を掲げた。

「皆席に着いたな。回答用紙の準備はいいか。それでは、始め‼」

声と共に杖からふわりと光があふれだして、それぞれの机の上の紙に問題が書き出されていく。

すごい。本当に夢みたいな感じだ。

でも、読んでみればもう何度も解いたことのあるような問題ばかり。

よし、やろう。私がルースちゃんに聞いた素敵な世界に一歩近づくための第一歩だ‼


「それでは、やめ‼」

その声をきっかけに、机の上の筆記用具が溶けるように消えた。

そして、紙はくるりとひとりでに丸まって、男の人の横に用意された箱にすうっと運ばれていく。全員分の回答用紙が収まるとガチっと硬い音がしてカギがかかり、待機していた役人さんが運び出していった。

「採点が終わり次第、結果が鳩で飛ばされる。この建物の中でならばどこで待っていてもいい。休憩中の態度も採点されていると思って行動するように。実技試験はまた鐘を鳴らして知らせる。二度目の鐘までに合格者は戻るように。以上。」

いかつい男の人が出ていくと、部屋は途端に騒がしくなった。

解き始める前と後で、ルースちゃんに教えてもらった改変されないための護符も書いた。

見直しも、何回もした。名前もちゃんと書いたし、もうなにも心配事は無いはず。

そう言えば、この部屋のいくつか先に図書館があるんじゃなかったっけ。

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