道半ばの戯れ

 図書館。

 そこなら鐘の音も聞こえるし、歩いて行けるからな。

 それにルースちゃんに聞いた話だとそんなに使う人がいないらしいから、さっきの部屋の、皆の視線を感じなくて済みそう。

 生まれて初めて街を出て、その後ずっと周りのなんというか、まあなんか色々言いたいんだろうなって思う視線に疲れてしまっているし。

 特に今はルースちゃんの街でのお付き薬師だってバレてる上で庶民の女の子だっていう偏見のミルフィーユ状態だからめちゃくちゃきつい。ミルフィーユはルースちゃんが今度一緒にお店で食べる約束をしてくれた、何層にも重なったおいしいケーキというものなんだって。


「おい、見ろよこれ!」

「薬の調合大会?大量に作ったやつが優勝だってよ!」

「優勝者には勲章ってことは、これ取ったらめちゃくちゃかっこいいやつだ!」


 前方の廊下の掲示板に張られたお知らせを見て、貴族のお坊ちゃまたちがはしゃいでる。

 さっさと抜けていこう。


「おい、そこの庶民!お前も出るよな?」

 後ろを通り過ぎて一安心、と思ったとき、背中になにか柔らかいものが当たったので振り返ると、先ほどのお坊ちゃまの手袋が落ちていました。


「お前は知らないだろうから教えてやるが、これは決闘の申し込みってやつだ。お前に拒否権はない!庶民の、しかも女のくせにこの王都の薬師院に入学しようなんてことを考えてるお前に身の程を知らせてやる!」


 なんか、ご一緒にいた方たちも止めるどころか一緒にふんぞり返ってますね。

 とりあえず、ずっとここにいるのはまずいことだけは分かりますので逃げましょう。


「失礼ですが、私はご主人様より薬師院入学前の勉学以外の行動はすべて慎むようにと申しつけられております。皆様のお力は決闘するまでもなく、察せられます。こちらの手袋も、私にはもったいない物ですのでお返しします。それでは。」


「っへえ、俺の決闘を受けられねえってか。お前、学校が始まったら覚えておけよ。」

「それでは、そのための準備もありますので、ご主人様にご報告させていただきます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか。」

 ルースちゃんにとりあえず名前か家柄だけでも伝えられたらいいんだけど。

「はっ、お前になんか名乗る必要もない!おい、行くぞ。」

「失礼いたします。」


 腰を折って、三人が遠ざかるとすぐに大会の概要に目を通した。

「なるほど。薬の難易度によって部が分かれているのですね。開催は夏、新入生がちょうど基礎を学び終わったころ、ということでしょうか。合格したらこの準備が始まるのでしょうかね。」


 ルースちゃんの詰め込み特訓が待っていそうな予感しかしない。


「とりあえず、図書館で実技までの時間を待ちましょう。」

 はー、学校用のしゃべり方って疲れる。

 早く帰ってのんびりしたいなぁ。

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