野望の芽生え
図書館は学生登録をしないとほとんどの本が読めないので、壁にかかっていた国の産業の資料や年表を眺めて待つことにした。
エントランスはほとんど本がないからかカッティングガラスの丸い屋根になっていて、なんだか視界が少しきらきらしている。
「ガラスってこんなにきれいなんだ……。」
雲が抜けたりすると、そのたびに光のゆらぎで視界がきらめく。
資料を読むのもそこそこに、私は光に見とれてしまった。
シャララララ……。
光に見とれていると、密やかな鈴に似た澄んだ響きと共に、金色の鳥が便箋を届けに来た。
器用に足でつまんでいる封筒は、赤い封蠟がされている。
「ありがとう。」
封筒を手に取ると、封蠟がおもむろにふわふわと小さな光の粒子になってさらりと解けて消えていった。
中には一枚の便箋。細い金の装飾が降り注ぐ光にきらめく。
ふう、とこわばっていた肩が柔らかくほぐれる。
「筆記試験は合格。まずは上々ですね。」
実技は確か毎年傷薬を一本。
そのための道具は持ち込んでもいいし、用意されたものを使ってもいい。
薬屋にとって使い慣れた道具は命と同等に大切にする人も多いから。
私は特にこだわりはなかったけれど、ルースちゃんが良く使っている商店でケースから何から一式そろえてきてくれた。腰に下げられるくらい小さいケースで、なんでも空間魔法が掛かっているものらしい。今日ももちろんずっと持ち歩いている。
「あ、時間ですね。」
実技試験前の予鈴がなっている。
結局あんまり資料や年表を見られなかったけど、きらきらした綺麗な場所で気持ちを落ち着けられてよかった。
会場教室に向かうと、あと少しのところで先ほどの方たちに出会いました。
「おう、筆記は解けるだけの頭があったみたいだなぁ。」
「そりゃこれからコテンパンにするんだからそれくらいできなきゃ面白くねえじゃんか」
「これは、先ほどお会いしました……」
そうだ名前を聞き忘れた、と思い出してごまかすように膝を折る。
「あー、そっか庶民だから貴族の家の事なんか分かんないかー。」
「ま、この試験で俺と同じくらいのクラスの薬を作れたら名乗ってやるよ。」
「お前と一緒って、中級以上じゃんか。むりだろー。」
「っかー厳しー!」
相変わらず言いたいことを言うだけ言ってこちらの反応も見ずに行かれるんですね。
ふう、中級ってどれくらいのものを作ればいいんだろう。
服の上から胸元を押さえれば、ペンダントの感触がふたつ。
ひとつはルースちゃんがくれたもの。
もうひとつは、小さいころに森の湖で妖精さんにもらったもの。
あの妖精さんは結局なんだったのか、そもそもあんなことあったのかすらちょっと不確かだけれど、でもこれがあるとなんだかいつも大丈夫だって思えるんだよね。
「よし、ルースちゃんのためにも、少し頑張りましょう。」
教室には、先ほどの筆記の人数の半分と少しくらいでしょうか。
机ひとつにつき道具も一揃い。材料は……教壇に小袋がたくさん用意されているのでおそらくそれでしょう。
「それでは全員揃ったな。試験はこの小袋を自分で選び、その中の用紙に書かれた指定の薬を時間いっぱいで完成させることだ。材料は全員に小袋がいきわたった後に配布する。それぞれ必要なものを取り準備が出来次第始めること。それではまず小袋を取りにくるように。」
なるほど。いくつかの箱が用意されているけれど、その中に薬草が入っているんだろうな。
全員小袋がいきわたったら封を開けるのね。確かに薬草はできるなら鮮度が大事。
生のものならなおさらだもんね。
さあ、やれるだけのことはやりましょう。
ルースちゃんとの野望を、始めるために。
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