調薬は楽しい
小袋の紙に書かれていたのは予想していた初級の傷薬ではなく、いわゆる上級回復薬だった。周りは取りに行った材料から見てもおおよそ初級の傷薬だろう。
「……なるほど、奇妙なこともあるかもしれないと言っていたのはそう言うことでしたか。」
ルースちゃんとの試験対策の時に、今年の試験準備は人員配置が例年通りではないと訝しんでいたけれど、やっぱり何かありそうな気がする。
「まあ、とりあえず作るのが先ですね。」
準備された薬草の中でも出来る限り色の濃いものをじっくり選別し、抽出したものをポーションにするための必要なものを受け取っていく。
時間もある。道具もある。技術だってルースちゃんとの練習でちゃんと上達した。
後は最適な材料を集めて、それの力を最大限引き出してあげればいい。
「ずいぶん素材の見極めに時間が掛かるんだな。」
じっくりと薬草の色味を吟味していると、意地の悪い声が降ってきた。
「他の方とは違って王都の薬草は見慣れないもので。」
試験官の嫌味は予想できたこと。
そんなことで手を止めることはしない。
「それに、私にとって一番大事な工程ですので。」
色味の濃さは回復薬の濃度、ひいてはその効果に大きく影響する。
大掛かりな魔法を使えない私には、これが一番のやり方だ。
必要な薬草を選びとり、席に戻るとまだ声をかけてきた役人は意地の悪い顔でこちらを見ていた。
とにかく指定されたものを作ればいいので、まずはルースちゃんが教えてくれた結界の立ち上げから順に手を動かしていく。
魔方陣に結晶を置いて、ふわりと結界が広がるさまは何度見てもきれいだ。
選んだ薬草を綺麗に洗った後、その成分を十分に出せるように柔らかく揉み、擂(す)り、濾す、を繰り返して不純物を取り除いていく。
すり鉢から立ちのぼる濃い草の香り。
染み出した成分の照り。
布を何度も通したどこまでも濃くて透明な雫。
薬草ごとに少しずつ色味が異なっているのがすごく綺麗だ。
何度も薬草を擂り、出来た雫を慎重に混ぜ合わせる。
出来たものを提出用の容器に希釈用の清水と割合を見ながら静かに注いでいき、密封。
最後にこれまたルースちゃんに教えてもらったおまじないをかけて
「よし、できた。」
瓶の周りを布で綺麗に拭ったついでに、額に汗が連なっているのを拭く。
きらきらと抽出したよりは薄まった透明な緑の液体は、瓶にたっぷり詰まっている。
我ながらすごく頑張った。
「出来たら……ああ、あそこでその場で鑑定されるんですね。」
辺りをちらと見回すと教室の端に人が座っていて、そこで一人ひとり薬の状態を鑑定されるみたいだ。これはルースちゃんが話していた通りですね。
作業台にあるものを片付けて、最後に結界の道具を仕舞いこみ、さあ並ぼうと思ったときさっきの感じの悪い役人が不機嫌そうにこちらを見ていることに気が付いた。
平民なんか放っておいていい立場の人でしょうに。
なんだか面倒くさい人ですね。
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