その34 あきらめたくはありません!

それからなんとか出来上がった軟膏を運んであれやこれやとケガや火傷の対応をしているとその騒ぎを聞きつけた人たちが集まってきた。

ケガした人たちの家族然り、近所の野次馬然り、なぜかお貴族様までいるんですけど。

やりにくいったらありゃしない。ルースちゃん、いやルース様はすごい話しやすかったけど、今来てる人たち、すごいこっちを見下してる感じがひしひしとしてて本当にありがとうございますごちそうさまですどうぞお帰り下さいって感じ。とりあえずこっちは処置が先ですからね。向こうでごねごね言ってる間は放置しますよ。一刻も早く終わらせないといけないですから。


「ふん、こちらを呼んでおいて挨拶にも来ないとはやはり北の人間は出来損ないの集まりですわね。」

なんか顔をしかめたお貴族様が色々言ってる。出来損ないだと思うなら出ていってくれればいいのに。こっちはお貴族様の冬ごもりの準備もしなきゃいけなくてただでさえ大変な冬支度がすごいことになってるんだから。


「ああ?なんだと!出来損ないだっていうならお前らが出ていけばいいじゃねーか!」

「そうだよ!おれらの冬支度ぶんどっていきやがって文句つけてるとかふざけんじゃねーぞ!」

「お前ら俺らの事出来損ないだっていうならなんで南の街で冬越さなかったんだ?ああ?」

あ、血気盛んな人たちが騒いでますね。とりあえず埃が舞うからちょっと離れた場所でやってほしいな。


「ソフィア、そっちの軟膏少しこっちにくれ。」

「あ。はい。」

騒ぎに背を向けてひたすら母さんが先に消毒して回ってくれた人の傷に軟膏を塗って包帯を巻いていく。その上から消毒した後水でキンキンに冷やした石を当てておくように配っていく。軽症の人たちは軟膏の痛み止めも効いてきたのか、少し穏やかな表情をするようになってきた。後は父さんにお願いしておいた薬湯が出来たらそれを飲ませて安静にすればよくなるはずだ。

中程度の症状の人たちは父さんと母さんが対応してくれている。野次馬も、気が付けば野次馬の中で気の利いた人がいたのかなんかいい感じになっていた。私が軽症の人たちの処置が終わったと伝えてすぐにその家族が人込みから押し出されてきたし。安心してハグしたりしてるのを見ると、ちょっとほっとするね。良かった。


「じゃあ、私は重症の人たち見るから。」

「おう。」

父さんと母さんに声をかけて、あらぬ方向に足が向かっていたりする人の方へと向かった。


うーん、やっぱり半日経ってからだと傷がひどいね。

とりあえず重症の人たちの状態を見て回った結果。

背中に傷があって、足があらぬ方向に向いている人が1人。

お腹を大きくえぐられたみたいな傷が火傷でただれている人が2人。

腕があらぬ方向に曲がっている上に額から出血してる人が1人。

最後の人は治癒魔法が使えるみたいで、襲われてから手が回らない間中4人に順繰り治癒魔法をかけてくれていたらしい。それでなんとか生き延びられているとか。

それでもお腹えぐられた2人は血を吐いたりしてるし、治癒魔法をかけ続けるのもそう長くは続けられない。

「とりあえずまずあなたに魔力回復がすこし良くなる薬を煎じますね。その間にみんなの傷を消毒して、足と手は……とりあえず添え木してみようか。」

さっき軟膏を練った竃で魔力回復の煎じ薬を濃い目に用意して、その間に残っていたお湯ときれいな布で傷周りを綺麗に。申し訳ないけど服は切らせてもらった。後でヴィネーラに仕立て直し頼もう。ちょっと血の匂いとか赤い肉とか、骨が見えていて気が遠くなりそうだったけど、そこは気合で。薬屋だし、材料になる生き物の解体で少しは耐性あるかと思っていたけど、やっぱりちょっときつい。森でぼうっとしたい。

「大丈夫。絶対大丈夫だから。あきらめないで。大丈夫だから。」

消毒が痛いのか顔をしかめて呻かれるたびに声をかける。途中、目が染みて涙だか汗だか分からないものがぽたぽた落ちた。


「治癒魔法を使ってくれてるのはあなただよね。これ、少しは魔力回復にいいから。」

出来た煎じ薬をコップに移して渡すと、少し顔色が良くなったような気がする。

皆の傷に軟膏を塗りこめて、包帯をする。添え木も訝しまれたけど、きっとよくなるからと言って痛みに耐えてもらった。元の向きに戻すのは父さんが力でどうにかしてくれた。


「よし、後は冷やす石ね。」

石は店の裏の日当たりの悪い場所で冷やしてある。

籠をもって裏に向かうと、ひたりと首筋につめたいものが当てられた。

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