その33 帰宅即お仕事、です!

家に帰ると丁度母さんが消毒液の補充分を取りにきたところだった。

「あ、母さんただいま。武器屋のおっちゃんになんとなくの話は聞いたよ。」

「あらお帰り。じゃあ、とりあえずご飯食べてから来なさい。長丁場になるわよ。もし来るときに乾いてたらそこに干してあるふきんを持ってきて。消毒液と瓶は今持っていくから」

母さんはてきぱきと消毒液の瓶と煮沸消毒し終わった予備の瓶を籠に入れていく。

「消毒液はそれで足りそう?」

「人数が多いけれどどうにかなると思うわ。それよりやけどが深いから、そっちの方が足りなくなりそうね。」

「じゃあ、明日は様子を見て薬草を取りにいかないと。」

「あら、皆その森に行ってやけどして帰ってきているんだけれど?」

「あ、そっか。」

ダメじゃん。

薬草は今ある分だけ、ってことはその後は自力で治してもらわないといけないんだよね。

しかも冬支度の分を残しておかないといけなくて……。

「じゃあ先に行ってるわね。ちゃんと食べてから来なさいよ。」

「え、あ、うん。いってらっしゃーい。」

困った困った。

うん、とりあえずご飯食べよう。

ついでにお菓子もちょっとだけ先に食べちゃおうかな。

この後頑張るから、いいよね?



スープを食べた後ふきんを取り込んで店に向かうと、思った以上にひどい有様だった。

「なんかすごいね。噛み切られた傷が火傷でただれてるって感じ?」

火傷だけでなく、普通のケガもかなりある。なんか人によっては向いちゃいけない方向に足が向いてたりするんだけど。なんか血を吐いている人もいるし。

グッとお腹に力を入れて気持ちを奮い立たせる。

「父さん、重症なのはどの人たち?」

「ああ、あっちの足がもうだめになっているやつの辺りだ。あれはもう駄目だろう。」

ああ、やっぱりさっきの人重症グループだったのね。

「あのあたり以外は命に別状はないの?」

「とりあえずあのあたり以外は致命傷はいないな。あいつらは……助かってもまともに暮らせねぇだろ。」

父さんの声はだんだん小さくなっていく。

まあ、確かに無理もないか。

「ね、傷薬と火傷の薬の調合終わったらちょっとあっちの人たち見ててもいい?少し試したいことがあるの。」

「あ?そうか?とりあえず薬の調合をしてからだな。傷を清潔にするのはほとんど来てくれたやつらに任せてある。急ぐぞ。」

「うん。」


二人で軟膏を秤にかけ、窯で煉りながら調合していく。

「はあ、むり、父さん交代。」

1人分とかなら楽しい煉りの作業も、大量だと苦行だ。主に肩と腰が。腕なんて生易しい物じゃない。もう二人ともへとへとになりながら軟膏を練っている。

「にしてもなんでいきなりこんなに皆火傷なんてして帰ってきたの?山火事でもないのに。」

「ああ、どうやら魔物が出たらしくてな。それもこの辺りじゃ珍しい火の魔物だ。」

「へ~、火の魔物って南の方で時々見られるって言うのだよね。なんでこんな北の方で?」

「さあな。ほれ、そろそろ交代だ。」

「えー、もうちょっと休ませて。薬が出来る前に私が倒れちゃう。」


にしても火の魔物かぁ。

冬支度もあるし、早く解決すればいいけど、確か魔物ってすごい強いんだよね?

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