その35 いいがかりです!
石を籠に入れて戻ろうと振り向くと、さっき騒いでいたお貴族様たちがいた。
「ずいぶん時間がかかったわねぇ?グズちゃん?」
「な、なんでしょう?お貴族様。」
首筋にあたる冷たさに胸が早鐘を撞く。
なんか分かんないけど、この状況はまずい気がする。
「あらぁ、そんなに警戒しなくていいのよ。ちょっと気を失っていてくれればいいから。」
そういうが早いか、首筋に剣を当てるのとは違う貴族に鳩尾を入れられる。
首筋にすっと痛みが走ると同時に体が動かなくなり、私は石の籠と共に意識を手放した。
***
目が覚めると、手足を縛る縄と絨毯の感触があった。
どうやら、お貴族様のお屋敷らしい。メディチ様のお屋敷に似ている、というか多分メディチ家だ。ここ。
「ですから、この不届き物は私の家の書物を見るだけでは飽き足らず、正規の治療である魔法治療でなく前時代的な薬草での治療を行ったのですよ!」
「申し訳ありません。この村では王都ほど魔法に長けたものはおりませぬ故、このようにするしか術はなかったのでございます。」
「あら、じゃああなたたちは魔法治療を否定するというのね?」
「いえ、滅相もございません。出来ることならば私どもも魔法治療を行いたいのです。ただそれが出来るものがこの街にはおりませぬ故、このようなことになりましてですね……。」
「知っていたならなぜ治癒魔法が使える者を呼びに来なかったのです!」
なんか言っていることが無茶苦茶だ。寝起きの頭でもそれくらいは分かる。
「そんなの、どうせ言ったってやってくれないじゃないですか。それに、そんなことをしたら逆に罰されるかもしれないと分かっているのにやる意味あります?」
お貴族様たちは基本的に私たちには何もしてくれない。私たちもお貴族様にもとめちゃいけない。
私たちは毎日働いて、それをお貴族様に納めて、それで残った分で助け合いながら暮らすだけ。
お貴族様たちはその納められたもので一生仕事をしなくても遊んで暮らせるだけの財産を持っている。
私たちは一生かかっても手に入れられない豊かさをもっている。
……あの書庫や、お茶会みたいに。
ただ、ただそれだけのこと。
「ほう、目が覚めてすぐに減らず口を叩く余裕があるなんて、さすが雑草は違いますわね。」
雑草なんて草は無いんだけどなぁ。このお嬢さま、実はあんまり頭がよろしくない?
「あーあ、もう退屈しちゃった。いいわ。帰りなさい。」
そういうと、お貴族様はさっさと部屋を出てしまったので、私たちもお屋敷の外に放り出された。
やっぱり思った通り、そのお屋敷はメディチ家だった。
それから町長のところにお貴族様から手紙が来てこの前の罰として小麦を余計に取り上げられたりした。
母さんたち婦人会もみんなも不満たらたらだったし、皆私たちが薬で治療したのは間違っていないって味方になってくれた。
それに、怪我をした人たちの肥立ちが悪いと回復も遅くなってしまう。
皆もうすぐ冬だから、そのことをすごく心配していた。
冬は傷の回復が遅くなりやすいからね。
丁度ルース様とのお茶会があったからそのことをちょっと伝えたら、すぐにその小麦は返されることになった。なぜか元より少し多めになって。
ルース様すごい。
そういえば、結局お菓子は食べる暇もなくて、またお茶会に行ったから家にたくさんある。
その上またもらってきたので、冬の間のおやつは結構豪華になりそうだ。
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