その11 おっきいお肉と、偉い人?
「それにしても今日の猪おっきいねぇ。」
「なんでも片目をケガしてたらしいよ。だからこんなにおっきいのに倒せたんだって。」
「へぇ、なんというか、猪も大変なんだね。」
広場のたき火で焼かれた猪肉の串焼きを持って近所の子たちとくだらない話をする。
1人で空を見てるのも好きだけど、たまにはこうやってわいわいするのも好き。寂しくないから。
「にしても、こうやってでっかい猪見ると森で狩りをするの楽しみだよなあ!」
「ホント、なんで洗礼式で恩恵分かってからじゃないとっていうのがあるんだろうな。俺たちはもう剣術の恩恵って分かりきってるんだからもういいじゃんかねぇ。」
ミェーチ とマーリンノッシュ がぶうぶうと文句を言いながら肉塊を食いちぎる。
「いいよねぇ、二人とも。絶対強い恩恵があるって分かっててさぁ。」
母さんや父さんがもう私にも恩恵が決まっているって盛り上がっていたのを思い出して少し憂鬱になる。
「強い恩恵欲しいなぁ。大剣は振れないけど、せめて弓術とか飛び道具のが欲しい……。」
「ソフィアまだ諦めてなかったの?」
隣で静かに口を動かしていたヴィネーラ があきれたように笑う。
「だってさぁ、強い恩恵で強くなれたら森の奥にもっといい薬草探しに行けるかもしれないじゃない?」
「ソフィアはそうやって出かけてって空だけ見て帰って来たりするからな」
「うん、日向ぼっこ楽しかったって言って帰ってきそう」
「なんなら星が綺麗だ~って言って野宿とか考えそうね」
え、みんな私を何だと思ってるの?
「さすがにその言い分はひどくない?」
「いやだって、初めて森に行ったとき自分から迷子になりにいったりしたし……」
いや、あれはちょっと気になる木を見つけただけで……。
「狩りに行っても空ばっかり見てて獲物逃がすし……。」
それは雲が綺麗だったからつい見とれちゃって……。
「俺たちがどんだけ一緒に森に行ってると思ってんだよ……。」
まずい、胸に手を当てなくても心当たりがありまくりでした。
「そ、そういえばさ、森に行けるようになったらみんなでベリーの群生地行こうよ!」
「ああ、ウサギの良く出るあたりか」
よし、これ以上昔のことを言われる前に違う話題にできた!
「ソフィア、あそこ、本当にお気に入りだよねぇ。私も好き~。」
「にしても今年はまだ解禁の宣言しねえのかな。いつもならそろそろする時間だろ。」
「確かに。」
いつもなら、大きい獲物が持ち帰られるとそれを獣払いの終わりとして、ご飯をみんなで食べているときに森の解禁宣言がされる。
その後1週間は手慣れた人たちが狩りに行って、それが終わると狩りが苦手な人やまだお手伝いの子供たちも安心して出かけるようになるのだ。
つまり宣言がされても私は1週間おあずけ。早く宣言されるに越したことは無い。
でも、もうそろそろ配られた串焼きを食べ終わるのにお偉いさんたちが出てこない。
「なんか準備ができてなかったのかなぁ」
「さすがに準備を忘れてるってことはないだろ」
「にしても遅くない?」
みんなでその後も串焼きをおかわりしつつ待つが一向に宣言の様子がない。
もう春と言ってもまだ山の方は雪が残ってるし、夜は寒い。さっきよりもたき火の近くにみんなで移動して、肉をさらに炙りながらちまちまと食べる。
「そろそろ寒いんだけど。」
「あ、ねえ星が綺麗だよ。」
「ソフィアはぶれねぇなぁ……。」
ぶつぶつと話しながら星を眺めていると広場の入り口にいかにも良い服を着た人たちがぞろぞろと歩いてくるのが見えた。
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