その27 知識が欲しいです!

お茶の流行からひと月。すっかり夏になり、半袖でも木陰でじっとりと汗をかくようになった。あれからお茶を買う人たちは少し減っている。さすがにこんなに暑いのにあったかいお茶をたくさんは飲まないよね。今のうちに秋から冬に売るだろう分の在庫を用意しておこう。

「ソフィア、ねえ聞いてる?」

「え、ああうん。なんだっけ?」

「も~!だからお貴族様が今度作る学校に本当に行くのかって話よ。」

そう。流行り病の猛威もなく、王族の住処もできたので、次は学校を建てるという話だった。色々忙しくてすっかり忘れていたあの話。シリウスさんにめちゃくちゃ脅かされてたあれ。

正直もう薬屋で手一杯だし、お茶の販売も母さんだけでは無理だろうからお屋敷の書斎だけ通うようにして学校は行かないつもりだったのだ。というか物理的に無理。

「ソフィアはあちらから指名があったんでしょ?すごいことなのよ、それ。」

「うーん、でもお店のこと考えると色々無理があると思うんだよねぇ。私が学校に行くとなればお金もかかるし、学校に行っている間に稼げたはずのお金は入ってこないし。」

「まぁ、それもそうよね。私も入学試験だけは受けるけれど、通えるかは別問題よね。」

知識は欲しい。書斎で見つけたお茶の作り方でみんながちょっと元気に、そして笑顔になってくれたのはすごい嬉しかった。学校にはいつも通っている書斎よりも大きな図書館という部屋が作られるらしくて、そこには数えられないくらいの本を置くらしい。出来ることならその本をたくさん読んで、薬屋として色々な商品を作りたい。結局今回は薬なしでよかったけど、基本流行り病には薬の調合が不可欠だ。その時になって慌てて色々探り探りの調合をするより、なにもないときに練習だけしておいてそれをいざというときに作れるならそれに越したことはない。と、思う。

「なんとか図書館だけ出入り自由にならないかな。」

シリウスさんにもメディチさんにもその案は却下されてしまった。

今の主流の治療は魔力を練って薬を作る方法らしい。私たちはそんなこと教わってないから昔ながらのごりごりすりつぶしたりして作る方法だけど。なんか仕組みはよく分かんなかったけど、とりあえず純度が高くなったり希少性がどうのこうのだったりするんだって。私は周りの人が苦しんでいるときに楽にしてあげるのが第一だから、そんなお宝みたいなものを作るつもりも予定もない。

「それは難しいでしょうね。あの図書館は学校で学ぶために集められているようなものなんでしょ?」

「だよねぇ~。ヴィネーラはもし受かったら行くの?」

「うーん、実は仕事先でその話をしたら授業料をみんなが援助してくれる話が出てね。まあ、受かれば、の話よ。」

そう。どれくらいの難易度でどんな試験内容なのか、いくら探したり聞き耳を立てたりしてもつかめない。ひたすら待つしかなかった。対策のしようがない。

「王都から生き延びた貴族もそろそろ来るらしいわよ。学校の隣にある寄宿舎で生活するって言ってたわ。」

「じゃあヴィネーラは宣伝に力が入るね。」

「ええ、必ず太い客をつかんで見せますわ。」

ヴィネーラは強い。どんなときも自分の立ち位置を確認して一番よさそうな船に乗ることが出来る。私もそれができれば……いや、やめておこう。

今はお店のことを考えるんだ。

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