その9 パンがいっぱいです!

「それにしても、風邪の流行まだまだ収まってないのに、よくみんな来たね」

「そりゃあ、ほら、あんなにきれいになった服を見せられたらねぇ」

「聞くまでは石鹸でも買ったのかと思ったよ」

「石鹸なんて、なかなか手が出ないからねぇ」

「ほんと、ちょっとお湯を用意すればこんなにきれいになるなんて夢みたいだよ」


 そっか、やっぱり皆にきれいになった服をみせびらかしてたのね、母さん。

 あんなに、あんまり見せたら嫌味になっちゃうわ、なんて言ってたのに。


「それより、今日はここでお昼にするんだろ?パンは焼いてきたよ」

「うちはふかし芋」

「うちはジャムだよ」


 さくさくと敷物や食器が用意されて簡単な、というには豪華なお昼が用意された。

 手を温める用だったたき火でスープも温めなおされている。


「うわぁ、すごい」

 外で食べるご飯は、寒かったけど、すごく温かくておいしかった。



「お土産もいっぱいもらっちゃったね」

「そりゃあ、今日の先生にはお礼をしなくちゃいけないもの。当たり前のことよ。」


 パンにスープ、ジャム、特製の干し肉まで、みんなが持ち寄ったお昼ご飯の残りは全部うちで持ち帰っていいことになった。

しかもジャムと干し肉はお昼ご飯用以外に用意してきてくれていた分までもらっちゃったし。


「この前の白パンもまだあるのに、これは当分食べられるね。」

 パンがかごにこんもり。ああ、この光景、幸せだぁ。隣にジャムの小瓶もあるの。最高。


「干し肉は父さんが喜ぶわねぇ。宣伝した甲斐があったわぁ。」

 あ、やっぱり。

 その言い方は私が思ってたより頑張りましたね?母さん?


 今日だけではどの家も全部洗濯が終わるわけがないので、また近いうちにみんなで集まってやることが決まっている。

その後のご飯会も。

 今度は男手も入れてさらにたくさん洗濯するそうだ。

やる気になったお母さんたちの勢いは止まらない。

 私もこうやってパンとかジャムがもらえるのはすごい嬉しいからいいけど。


「明日の朝はどのパンにしようかなぁ」

 こんな贅沢なことを考えながら寝られるなんて、ホント幸せだなぁ。


 そうだ、そろそろベッドの藁のぼこぼこを均さなきゃ。

一回ほどいてまた束ねていくの、結構時間かかるんだよねぇ。

その時に内側の藁の状態も見ておきたいな。変なにおいとかはしないから、多分腐ったりはしてないと思うんだけど。


 あ、でもなんかこのままでもパンの切れ目みたいで素敵じゃない?

 しばらくはこのまんま、パンの上に寝るみたいにしてもいいかも。

 ああ、いい夢見れそう。ホント、私、幸せだぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る