ドラゴンさんの子育て日記②

 新聖歴888年 宵月の二十三日


 赤ん坊の泣き声が響いている。

 ライラに赤ん坊の名を問われた。何も名前など書いてなかったし、知らんと言ったら考えるように言われたのだ。

 うーむ、我は名前など考えたことはないのだが。



 (省略)その後、名前がだらだらと続く。



 新聖歴888年 宵月二十七日


 ライラに名前を考えるように言われて数日。我は思いつかなくて困っておる。

 そもそもあれだ。我は名前など考えたことはないのである。

 名前とは重要なものである。その身を表す名である。名前は一生付き合っていけなければならない一番最初の贈り物であると、友人が言っておった。

 そういえば今は亡き友人は子供の名前を何にしようかと楽しそうに考えておったか。我はこんなに悩んでおり、楽しいなど考えられないのだが、友人は楽しんでおった。名という重要な案件を考えるのにあんなに楽しそうにしておった友人を思うとなんか負けた気になって少しいやであった。

 人間の赤子を拾ってから友人のことをよく思い出される。

 友人はどんなふうに名前を考えたのだろうか。




 新聖歴888年 宵月三十日


 ライラにいい加減考えてくださいと怒られた。ライラは赤子を拾った日からずっとここに泊まっている。

 我だけでは赤子の世話は任せられないといわれて我はしゅんとしてしまった。そうか、我はそんなに頼りないのか……と。

 ライラの村にもちょくちょくいく。最初は悲鳴をあげられたが、今では普通に人間たちは声をかけてくる。

 人間たちにも名をどうしようと聞いたら、「貴方様の思ったものでいいです」と言われた。うむ、それが難しいのだが。我が名は重要であろうと言ったら、なんか「ドラゴンなのに真面目ですね」って言われた。なぜだ。ドラゴンに対する偏見であるぞ? 確かに我は大雑把な性格であるが。

 古代語で強さを表すクラインス。

 美しさの象徴であるカーズノ。

 始祖竜と呼ばれるドラグネスの名からとってラネス。

 とか、候補を挙げたのだが、ライラに性別は男だからかっこいい名前がいいと言われた。

 あ、そうか。性別の確認をしておらんかった。赤ん坊は♂であるのか。




 新聖歴888年 深月二日


 気づけば月が明けてしまった。我は友人とかかわってから日付をきちんと確認するようにしておる。

 友人といつ待ち合わせをするといわれた時に我は当初よく遅刻しておった。正直寿命が長い我らドラゴンからすれば数日の差も数年の差も特に変わらんのだ。しかし人間からすればそうではなく、友人がわざわざ今が何時かわかるものを作ってくれたのだ!

 友人からの贈り物であるそれを我は大切にしておる。日記には何時かいたか書くのは重要らしいのでな。ちゃんと我は書いておるのだ。

 名前は、正直まだ悩んでおる。




 新聖歴888年 深月五日


 ようやく名が決まった。

 我の名、シルビア。

 始祖竜、ドラグネス。

 その名を掛け合わせて、ルグネ。

 どうだ? いい名前じゃろう?

 ライラにも早速言いに行こう。



 新聖歴888年 深月六日


 良い名だと褒められたことに我は嬉しい。

 うむ、ルグネと名前を付けてからこのか弱い赤子がかわいく思えてきた。名をつけるとこんな気持ちになるのだな。

 我は長い間生きておるが、番を作ってはこんかった。

 面倒だったのだ。恋だの愛だの我にはわからん。

 しかし、子に名前を付けるのは楽しい。



 新聖歴888年 深月十八日


 ルグネは相変わらずわんわん泣いて居る。小さい。

 人間とはいつしゃべるようになるのだとライラに聞いたら、そのうちしゃべりますよと言われた。うむ、そうなのか。

 ライラはまずお母さんと呼んでもらいましょうと言っておった。我が生んだわけではないのだが、母でいいのだろうかと思ったが、ライラは育て親も母ですからと言われた。

 母か。

 呼ばれたらやはりうれしくなるものなのだろうか。我、ちょっと楽しみになった。




 新聖歴888年 深月二十二日


 もうルグネを拾ってひと月経過した。我は大分赤子の扱いがうまくなった気がする。

 ルグネを拾ってから我は人型によくなる。赤子はふにふにで気持ち良い。前に触りすぎてライラに怒られたから最近は自重している。

 かわりにライラの肌をふにふにした。人間の女子の肌はふにふにで気持ち良いっていったら、我の人型の肌もそんなんだからそれをふにふにするように言われた。

 ふむ、そうなのかと思い、我の肌をふにふにしてみた。

 人型の我の肌などあまり触らない。人型にもあまりならない。だから知らなかったが、確かにふにふにで気持ち良かった。

 ふむ、しかし、ルグネの肌とライラの肌と我の肌だとふにふに具合が違うのだな。我、全部触りたい。ふにふにが癖になった。

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