幕間 ドラゴンさんのいうきんきらきんとは。
ザイドラ村に住まうドラゴンさんとその旦那さんたちの親しくしていた人間の少女は、ドラゴンさんがきんきらきんと呼ぶ貴族の元へと嫁いで行った。
ドラゴンさんのいうきんきらきんの本名は、ドラフ・シューベルトという。その国に五つしか存在しない公爵家の正当な跡取りだ。本来ならば、ザイドラ村という辺境の村の娘を嫁にもらうような家柄ではない。それどころかかかわることがなかったのが本来の姿だろう。
しかし、ザイドラ村に高位竜であるドラゴンさんたちが住みつき、人間の少女と親しくしたことから少女ときんきらきんの運命は絡まった。
ドラフ・シューベルトはそれはもう美しい男である。
金色に輝く髪に、瞳。それでいて貴族としての洗練された態度。誰もが夢見る貴族の王子様―――そういう存在であった。彼が、辺境の村の少女に告白をしたに至った理由に打算がなかったわけではない。初めは、興味、そして高位竜と親しくしている存在を取り込むため。そんな理由ももちろんあった。
が、ドラフ・シューベルトは少女と接しているうちに、少女に本当に惹かれていってしまった。文通を交わし、時折会い、そうしているうちにドラゴンさんたちを恐れるわけでもなく、家族として接している彼女を見て惹かれていったのだ。
そういうところを考えると、少女ときんきらきんの恋のキューピットはドラゴンさんということになる。
ドラフ・シューベルトは、少女と結婚をしたいと思うようになっていた。少女と共に歩めたらと。そのために身分というものが問題だったが、何せ、少女は平民とはいえ、高位竜の家族とも言えるような存在である。高位竜は一体でも国を滅ぼすだけの力を持つとされている存在だ。
そんな高位竜が、何体も揃っている。……番になったり、子供の世話をするためだったり、そんな理由でである。ドラフ・シューベルトは、それを問題には思っていなかった。ドラゴンさんとそれなりに親しくしているのもあって、ドラゴンさんが国を滅ぼすなんてことは刺激しない限りありえないだろうと知っていたからだ。
だが、高位竜が近くにいることにおびえているものも多く居た。それも含めてドラフ・シューベルトは利用した。少女は、高位竜たちにとって大切な存在である。その少女と結婚をすれば、国に手を出されることはないだろうと。
それは事実である、ということをドラフ・シューベルトは確信していた。
少女を彼らは大切に思っている。思っているからこそ、抑止力になる。ドラフ・シューベルトは、説得をし、少女と結婚をすることを周囲に認めさせた。
少女と出会ったのも、少女との付き合いが認められたのも全てドラゴンさんのおかげである。ドラゴンさんがいたからこそ、少女と出会えて、少女との未来を勝ち取れた。だからこそ、彼は、ドラゴンさんへの感謝を持っている。
ドラゴンさんたちがそれはもう王でも手に入らないのではないかというほどの貴重なものを散々少女に結婚祝いとして与えた事も含めて、国はそれなりに混乱したのだが、まぁ、それは別の話である。
さて、ドラフ・シューベルトの傍に、今少女は居る。
次期公爵夫人という地位に納まってしまった、元々平民の少女。しかし、彼女に手を出そうというものはよっぽどの愚か者以外いない。国王陛下の名のもとに、少女に手を出したら、高位竜が黙ってないだろうということが告げられ、手を出したものには厳重な処罰を下すと宣言している。国王陛下も必死なのであった。
少女は、元々平民であったが、高位竜と日ごろから接している生活をしていたのもあって、貴族に怯んだ様子は一切ない。
―――貴族よりも怒らせたら大変な人たちとずっと一緒に居ましたから。
と、そんな風に少女は笑っていた。その言葉を聞いてきんきらきんは思ったものだ。そうだ、我が妻は、あの高位竜に説教をしたり出来るほどの存在なのだと。
ドラゴンさんたちは、少女をそれはもう大切にしている。だからこそ、少女のもとによく訪れる。そのたびに、公爵家は慌ただしくなる。高位竜を迎えるためにはそれ相応の準備をしなければと家のものは思っているらしいが、少女ときんきらきんはそのようにしなくても問題ないと思っている。とはいえ、慣れるまでは高位竜が怖いのは当然であって、そのうち慣れてきたらドラゴンさんたちがどのような存在であるか、わかってきたら彼らの緊張も取れるだろうと思っている。
カメラをドラゴンさんが求めていると聞いた時も、きんきらきんはそんな準備していなくても怒りはしないだろうと思っていたが、公爵家総出で探すべきだという結論が現当主からされてしまったために探し回るはめになった。一生懸命探したカメラを、ドラゴンさんが思ったよりも喜んでくれていたのできんきらきんとしてみれば嬉しいことだった。
きんきらきんは、少女の隣にいることが嬉しく思う。
ドラゴンさんに顔を認識されていることも嬉しく思う。
ドラゴンさんが訪れる時は慌ただしいが、それも楽しいと思う。
だが、しかし——―流石に名前を覚えて欲しいと、きんきらきんは思ってならない。
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