幕間 ドラゴンさんの今は亡き友人とは。

 ザイドラ村のすぐそばに住まうドラゴンさん。そのドラゴンさんは、人間の赤子を拾うまで、あまり人の世に関わる事なく生きていた。

 しかし、そんなドラゴンさんにもたった一人だけ友人と言える人間がいた。




 それは、《紅蓮の魔女》、《破滅の魔女》などと呼ばれたフェスタリアという魔女だ。



 百年以上前に没した彼女は、あらゆる魔法を使いこなした天才児であったと言われている。また、好奇心旺盛であり、自信満々な性格をしていたそうだ。

 フェスタリアは美しい赤毛を持つ女性であった。くせのある赤毛を、腰近くまで伸ばしていた。瞳の色も同じく赤。燃えるような赤色を持つ女性は、人間に興味がないドラゴンさんに興味を抱いた。



 そして、ドラゴンさんに無謀にも話しかけに言った。

 それがドラゴンさんと魔女の始まりであったと言えるだろう。



 ドラゴンさんは魔女を殺そうと最初は考えた。どれだけうっとおしいといった態度をしても魔女はドラゴンさんに近づく事をやめなかった。それでいてドラゴンさんが殺そうとしても魔女を殺す事は出来なかった。



 《破滅の魔女》は、そう呼ばれるだけの強さを持ち合わせていた。時にはとある国を危機に陥らせ、時にはとある国を救う。そんな事を時折やっていた存在である。その存在は気まぐれで、当時存在した国々は、魔女に対して細心の注意を払っていた。

 圧倒的な力を持ち合わせていた魔女は、ドラゴンさんがあしらっても死ぬ事のない不思議な存在であった。それでいてドラゴンさんの事を友人などと呼びだした。

 ドラゴンさんは基本的に周りに関心を持たないドラゴンである。自由気ままに生きているドラゴンさんは、友人など皆無であった。

 そんなドラゴンさんにとって魔女はとても不思議な存在だった。理解不能といった存在だった。でも、友人と言われてドラゴンさんは少しだけ嬉しかった。



 ドラゴンさんは魔女と交流を深めていった。

 それに伴い、人の世での文字についても学んだ。というのも、この魔女は文字を書くのが好きだったのだ。また本を読むのも魔女は好きだった。ドラゴンさんに手紙をよこすこともよくあった。そのため、ドラゴンさんは文字を覚えたのだ。またそうやって交流しながら人がつける日記というものについても聞き知ったのだ。



 ”シルビア”と魔女はドラゴンさんの事を、いつも呼び捨てにしていた。ドラゴンさんの方がずっと年上だったが、ドラゴンさんと魔女は対等の友人関係にあった。

 魔女は時折ドラゴンさんの事を誘った。



 一緒に遊ぼうと誘われたドラゴンさんは、一緒に盗賊を壊滅させたり、魔女の魔法実験に付き合ったり、魔女が行きたがっていた場所に空中散歩をしながら向かったりと様々な事をしたものである。

 ドラゴンさんは魔女と共に過ごす日々が好きだった。

 魔女と過ごす日々は楽しくて、ドラゴンさんは魔女が来るのを待ち遠しく思っていた。





 さて、そんな魔女はある時、他の大陸に渡ると言った。





 魔族と恋に落ち、その魔族の故郷の地に定住する事を決めたのだと言った。その時の、ドラゴンさんと言ったら驚くぐらいにショックを受けたものである。ドラゴンさんは恋や愛というものを知らなかった。番を作るという事も何が良いのかさっぱり分かっていなかった。



 だからこそ、盛大にその時、ドラゴンさんと魔女は喧嘩したものである。行かないでほしいというドラゴンさん、そんなに言うなら大陸を渡ればいいと言う魔女、大陸は渡りたくないというドラゴンさん、私は止められてもやめないという魔女。そうやって盛大に魔法も込みで喧嘩をした後、ドラゴンさんは意志が固い事に悲しみながらも魔女を祝福したのだ。

 ドラゴンさんがしょんぼりしているので、魔女は交換日記を書くと告げてドラゴンさんを慰めるのである。



 大陸を船で渡るのはとても危険な行為であるので、ドラゴンさんは魔女が旅立ってからハラハラしながら心配して空中でうろうろしたりと挙動不審になっていたものである。魔女の使い魔が、『きちんとつくことが出来た』と報告が来た時は嬉しくて咆哮をあげたぐらいであった。その時、周りにいた生物達には迷惑としかいいようがない行為だったが、ドラゴンさんはそれだけほっとしたのである。

 それから、ドラゴンさんは魔女から交換日記が来る事をそれはもう心待ちにしていた。後に番になる旦那さんがドラゴンさんの元を訪れた時も、旦那さんを放置してそれを読んでいたぐらいだった。



 ドラゴンさんは魔女が向こうで何をなしたのかは知らない。ただ、書かれていた事は知っているが、きっと書かれている以上の事を魔女は行っているだろうという確信はあった。



 魔女との交流は、魔女が没するまで続いた。

 魔女はドラゴンさんにとって大切な友人だった。

 魔女との日々をドラゴンさんは今でも覚えている。

 没して百年経っても、ドラゴンさんは魔女の事を考えると懐かしさともう会えない悲しさを感じてならない。



 《破滅の魔女》フェスタリアは確かに、ドラゴンさんの大切な友人だった。そしてその魔女の存在があったからこそ、ドラゴンさんは人の子を拾い、子育て日記を書くに至ったのである。

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