ドラゴンさんの子育て日記③

 新聖歴888年 深月の二十五日


 ふにふにしすぎてライラに怒られた。

 やはりあれか、寝ているライラを見てついふにふに欲求に苛まれて色々触ってしまったのが悪かったのかの?

 ライラはどうしたら機嫌がよくなるのだろうか。



 新聖歴888年 深月の三十日


 ライラをふにふに出来ないため、ちょっとだけルグネをふにふにするのが多くなったら泣かれた。

 我、またライラに怒られた。

 頭を下げて許してもらった。ライラ、すまぬ。



 新聖歴888年 氷月の二日


 寒い季節がやってきた。我の気にならない寒さもライラやルグネにはつらいらしい。

 我の寝床は雪はあまり降らぬが、標高が高いのもあって地上よりは寒いのである。うむむ、人というものは大変である。極寒の地にも我は興味本位で行ったことがあったがそこの寒さはこう、びゅーと風がふいておって、どすんどすんと雪がつもっておって、湖も凍っておった。

 そういう地域にも人は住んでおった気がするが……、同じ人でも色々あるのだろう。我はよくわからん。

 あったかくすればよいのだなと火を噴いたら、その火が予定外の所に着火して凄く怒られた。

 我、最近怒られてばかりな気がする。でもライラとルグネが寒そうだったからっていったら、許してくれた。




 新聖歴888年 氷月の十一日


 目を覚ましたらルグネの身体が熱かった。なんと、人の赤子を死にいたしめる可能性のある風邪というものを引いているらしい。

 我は狼狽した。狼狽している間にライラが冷静に対処していた。

 ライラが居てくれて助かった。ルグネが死んだらと思うと……(涙の跡あり)




 新聖歴888年 氷月の十二日


 昨日泣いてしまったせいで折角の日記が少し濡れてしまった。紙というものは、あんなに硬い木からできているというのになんと儚い事か。

 人型の時で良かったと思うのは、竜体の時の我の涙はまるで雨か何かだと友人がいっていたからだ。あんな大粒の涙を日記に垂らしてしまったらもう使えないのである。

 それにしても名前をつけたからか、ルグネの事を我は中々可愛くおもっておるようだ。




 新聖歴888年 氷月の十五日


 すっかり元気になったルグネが竜体の我の足元で「うー」「あー」と声にならない声を発しながらもライラに抱かれておった。

 人型にも慣れてきた我だが、人型よりも竜体の方が自然体なので、人型におさまりすぎるともやもやするのである。しかし竜体の時にルグネが近くにいると少しびくっとするのである。我は正直人からすれば巨体であり、踏みそうで怖いのである。




 新聖歴888年 氷月の二十日


 ルグネが「うー」「あー」言っている隣で、ライラが一生懸命語りかけてきた。我も真似した。でも怒られた。我の喋り方が一般的ではないからそれを覚えては困ると。うぬぅ、そのようなこと言われても我は生まれてこの方、この喋り方しかしたことがない。

 私といったらどうかといわれたが、我は我である。仕方がない。言葉を教える時はこの喋り方をあまり出さぬようにするか。




 新聖歴888年 氷月の二十二日


 ライラがいうには、「うー」「あー」は言葉を喋る予兆でもあるらしい。では母と呼んでもらえるのだろうか。

 ちょっと考えると我はわくわくしてきた。母などとこれまでの人生で一度も呼ばれた事はない。

 我が母。……うむ、不思議である。




 新聖歴888年 氷月の三十一日


 今日は年の収めである。明日から新たな年が始まる。

 我は基本的に成体になってからというもの一人で年の収めを過ごしていたのだが、今回はルグネとライラ、後はライラの村の人間たちとも一緒に居た。

 村にお邪魔したのだ。

 人型になった我の周りに人間の雄が何の理由なのか知らないがちらほら視線を向け、話しかけてこようとしておった。何故じゃろう? ちらちら見られておるとライラにいったらライラは村の雄たちの元へと向かって何かをいっておった。

 ルグネはきゃっきゃと楽しそうに笑っておる。

 ルグネが笑っておるのが嬉しくなっている我が居る。

 子供なんぞ育てた事もなかったが、自分の生んだ子でなくてもなんだか本当に可愛く感じる我である。

 それにしても我が人の村をこうして訪れる事になるなど、ルグネを拾った時は思ってもいなかった。

 我は人が多い場所というのが好きではない。あと人型になるのも正直むずむずするので好きではないのである。我は人型で人間やエルフ、獣人といった人型の種族の元を訪れると必ずちらちら見られてしまうのだ。その視線が嫌いなのもあって我は好んで人型になることはなかったというのに……!

 そんな我がたった一人の赤子を拾ったことでこんな風に変わるとは、何とも面白い。我は我自身の変化に不思議な気分になるのだ。しかし嫌な気分はしない。

 子が出来ると雌は変わるとは聞いていたが、まさか我も変わってしまうとは。子というものの力は不思議であると我は改めて実感した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る