ドラゴンさんの子育て日記⑮

新聖歴890年 流月の三日


 我は名を覚えるのが本当苦手であると自覚する。今更自覚したのかと突っ込まれたが、仕方ないではないか。

 特に覚える必要もない名まで我が覚えられるわけがない。きんきらきんの名も百年経ってようやく覚えるとかかもしれない。

 その頃にはもうきんきらきんは死んでいるが。



 新聖歴890年 流月の六日


 きんきらきんの国の長がやってくるのは大体十日後ぐらいという話だ。

 村では国の長を迎え入れるためにと準備がなされているらしい。我にはよくわからない事だが、国の長が村を訪れる時などは準備が大変らしい。

 おもてなしをして無礼にならないようにする必要があるだとか。同じ人であろうに、人間は面倒だと思う。


 新聖歴890年 流月の十日


 我は特に準備もする気はなかったが、ミカガネは一応仮にも人間の王族を迎え入れるのだから少しはちゃんとしといた方がいいなどといって棲家の掃除などをしていた。



 新聖歴890年 流月の十二日


 ラオと夜中に相談をした。

 自分は飛べない事を泣いたルグネを思って、魔法を教えればどうかと我は思ったのだ。

 魔法を使って空を飛べたりも人はするのだから。けどラオは難しいかもしれないと言っていた。

 友人は空を飛ぶ我の横を普通に歩いておったのだが。



 新聖歴890年 流月の十三日


 友人は我にとって唯一親しかった人間であった。友人は人間の中でも中々異質であったというのは知っておるが、それでもルグネを飛べるようにしてやれないかなと思うのだ。

 人間は我らよりも脆弱であるし、才能にもよるところがあるってラオが言ってた。でもルグネも飛べた方が嬉しいし、我もルグネが飛べるようになったら嬉しいのだ。

 そしたら一緒に空を飛んで遊んだりできる。それを想像するだけで嬉しくなるというのに。


 新聖歴890年 流月の十五日


 明日人の国の長が来るというのに、我はルグネを飛ばしたいとばかり考えていた。

 ライラが一番慌てていた。ライラは明日は棲家に来ないようにするといっていたが、我は構わないと言ったら慌てていた。人間の身からしてみれば、人の長に会うのは恐れ多い事のようだ。

 おとなしく村に居たかったようだが、我がライラも居た方が嬉しいと言ったら結局頷いてくれた。



 新聖歴890年 流月の十六日


 人の長がやってきた。きんきらきん以上にきんきらきんだった。なんと呼ぼうか。きんきらきん2号でいいか。長々とした名前を言われたが、我にはさっぱり覚えられぬし。

 きんきらきん2号は沢山の人を連れて山を登ってきたようなのだが、棲家にそれだけ入られても邪魔であるし、子竜が居るのに大量の人がいるのを許容できるはずもない。

 だからきんきらきん2号とその子供、そして案内役のきんきらきんだけが棲家に来た。

 そのことに武装した男とかがきんきらきん2号達だけを中にやるなんてと騒いでいた。我は自分に敵対するもの以外は襲わぬぞ。そもそも危険とかほざいておったが、我とラオとミカガネという成竜が三体もいる場所で危険な存在などおらぬ。

 きんきらきん2号は騒ぐ男に喝をいれ、堂々とやってきた。そして我らに詫びた。正直自分がやったことではないのにこうして謝らなければならないなんて人の長というものも大変だなとそんな風に思ってしまう。

 我としてみれば、よくわからないが、人の世というものは本当に面倒なようだ。

 我と我の子たちを狙ってくるなら潰すのみであり、それ以上に暴れるつもりもないのだが、わざわざ人の長が謝りにこなければならないなどと……本当にややこしくて、我には理解出来ない世界だ。

 謝罪を受け入れたら、人の長はほっとしたような顔をしていた。人の長の子……年は七歳かそこらだろうかは緊張した面立ちだったが、ルグネと子竜二体に興味津々だったようだ。

 子供同士という事で一緒に遊ばせる事を提案してみた。

 きんきらきん2号は……長くて書くのがだるいからこれから2号と書こう。2号はいいのかと驚いていたが、何か変な真似したら殺すだけだからといったら青ざめた顔をして子に言い聞かせていた。

 でも2号の子供は結構図太い性格なのか、2号が青ざめた顔をしていても本人は楽しそうに遊んでいた。

 2号の子供と我の子たちは仲良くなった。2号の子供はまた遊びに来るからとぶんぶんと手を振っておったが、長の一族がそんな簡単に出てこれるのかと疑問に思った。




 新聖歴890年 流月の二十日


 人間と最近よくかかわるせいか、友人の夢を見た。

 友人は我にとって特別な存在であった。我はあまり誰かとかかわる事はしなかったけれど、友人と話すのは楽しかった。

 友人は人間であったけれど、普通という理からはなんか外れてる感じの人間で、我と一緒に遊べるぐらい強かった。

 懐かしい。



 新聖歴890年 流月の二十三日


 「キーにぃ」とルグネが口にしていた。誰だそいつはと思ったら、2号の子供の呼び名であるらしい。

 覚えていないのねとミカガネに呆れられた。



 新聖歴890年 流月の二十七日


 人が増えてここもにぎやかになった。ルグネを拾ってから、我の周りは賑やかで楽しい。

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