ドラゴンさんの子育て日記⑪

 新聖歴889年 深月の一日


 あとひと月もすれば、卵も体の外に出る事だろう。ああ、本当に気づけばどんどん時が迫ってきておる。双子というやつなので、二人分雄だった場合と雌だった場合を考えなければならぬと思うと少し悩む。

 あとルグネが棲家から落ちないか本当に心配なので柵を作った。落ちたら確実にか弱い幼子であるルグネは死んでしまうことであろう。


 新聖歴889年 深月の三日


 あと一月で卵が外へと出て、それから一月かけて殻を破るのである。もうすぐ我が子が生まれるかと思うと、なんだか心が落ち着かない。

 うむ、こんなに子が出来ると興奮してしまうものとは思っていなかった。


 新聖歴889年 深月の七日


 子の名前会議を行った。もう何回目かもわからない。それだけやっているけれど、決まらない名前。やはり名づけというのは難しいものである。

 ちなみにルグネもこの会議に参加している。というか、ルグネを一人で放置するわけにもいかぬからな。我は竜体でいたのでラオが抱きかかえておった。ラオもルグネを可愛がってくれておって本当に嬉しい。

 ルグネもラオも愛いから、見ていて我は嬉しいのである。

 そしてルグネだが、ラオウール、シルビア、ライラという言葉を覚えておってな、時折最近口にするのだが、愛い。何だかルグネに名を呼ばれると何ともまぁ、嬉しい事であった。まだ拾って一年だが、それでもこんなに成長したのだなと思うと、こう、なんか母性的なものが湧いてくるのである。

 名前については決まらなかった。



 新聖歴889年 深月の九日


 ラオがこんな名前はどうかと言ってきた。

 ラビノアという名である。雄でも雌でも通じそうな名だ。結構良いと我は思った。

 ラオは夢の中も名づけ会議をしていたらしく、その夢の中で我が言っていた名らしい。

 夢の中でまで子の名を考えてくれているとは、やはり愛い。


 新聖歴889年 深月の十日


 一体の名は考えたものの、もう一体の名を考えねばならない。

 相変わらず名づけ会議を行う。最近そればかりである。でも名を考えるのは楽しいので問題はない。


 新聖歴889年 深月の十一日


 名を思いついた。シノウール。

 中々良い名ではないかの。我が思いついたのである。

 ずっと悩んでいた子の名が決まると嬉しくて仕方がないの。


 新聖歴889年 深月の十三日


 ラビノア。

 シノウール。

 はやく生まれておいで、と楽しみになってしまう我だ。

 わくわくしておる。


 新聖歴889年 深月の十五日


 ラオがせっせと卵を温める場所を作っておる。もうすぐ出来るようだ。

 ラオも我と同様に子が生まれるのを今か今かと待ちわびているようだ。その様子は愛い。

 ルグネは相変わらず妹と弟という存在がわかっていないようだが、我らが嬉しそうにしているのを見て笑っておる。


 新聖歴889年 深月の十七日


 ライラがきんきらきんから手紙が来たと嬉しそうにしておった。ライラが嬉しそうにしていると本当に我らも嬉しい。

 ライラは我にもその手紙を見せてくれたのだが、そこには愛の言葉がつらつらと書かれておった。

 恋人にはこんなに愛の言葉をつらつら書くものなのかと我は衝撃を受けた。我なんてラオと番とはいってもそんな言葉ほとんど……というか、ライラに言うべきといわれていったときしか言っていないのだが。

 それ言ったらライラに気持ちは伝えないとダメ!って怒られた。

 それですれ違ったりとか、人の世では結構あるらしい。しかし、ラオは我の事大好きって毎回オーラを出しているし、すれ違いも何もないと思うのだが。

 でもライラに怒られたし、言ってみてもいいかもしれぬ。


 新聖歴889年 深月の十八日


 我がラオの事を愛いと思っていて、ちゃんと思っておるのだぞ?とライラに言われたし伝えたら嬉しそうにしておった。

 愛いといわれた事には複雑な気持ちを持っているらしいが、ラオは愛いと思う。実際に我が伝えれば嬉しさを全身であらわしているラオは愛いのである。

 でもラオには「シルの方が可愛いもん! シルは世界一可愛い」とか言われた。悪い気はしないが、世界一とかありえぬだろう。それにしてもこれだけ愛いラオを見れるなら時折言っても良いかもしれぬ。


 新聖歴889年 深月の二十日


 卵がもうすぐ外に出るのだなという事がわかる。

 日に日に大きくなっていく体内の魔力の塊。ここに、命が宿っているというのがわかる。

 なんだか嬉しいの。はやく生まれないかの。興奮してならない。



 新聖歴889年 深月の二十三日


 もうすぐ卵が産まれるというのもあって我は竜体でラオが作ってくれた卵を温める場所の上で寝ておる。

 ルグネが心配そうにこちらを見ておる。もうすぐ妹か弟か、両方かの卵が産まれるのだ。

 卵が孵るまではまた一月かかるが、楽しみである。


 新聖歴889年 深月の二十五日


 ラオもライラも慌ただしい。卵を身に宿している我よりも卵はまだ生まれないのかとうずうずしている様子を見るとなんだか笑ってしまった。


 新聖歴889年 深月の二十九日


 無事に卵が二つ生まれた。体内にあった魔力が一気に放出された。あとは温めて孵すだけである。

 楽しみであるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る