ドラゴンさんの子育て日記⑫
新聖歴889年 氷月の一日
卵を温める。
すぐに生まれてこないのは知っているけれども、でもはやく生まれてこないかなとわくわくしてしまう。
新聖歴889年 氷月の三日
卵が少し動いた気がする。
ここに我の子がいるのだと思うとなんだか嬉しいのである。ルグネが卵に触れておった。
ルグネに兄になるのだぞといったが、ルグネはよくわかっていないようだった。不思議そうに卵を触るルグネは愛い。
新聖歴889年 氷月の七日
なんかライラが村に外から人がやってきたといっていた。なんでも我たちの事を聞いてきたらしい。
なんなのだろうか。ライラは何だか不安になってきんきらきんにお手紙を送ったそうだ。きんきらきんは貴族であるからその人たちの事知っているかもしれぬなどといって。
新聖歴889年 氷月の十日
ラオが我の棲家の山の中ほどで死にかけた人間を見つけたとかいって回収してきた。
我たちは今ライラという人間と親しくしているのもあって理由もなしに人間を見捨てる気はしなかったようだ。そもそも人間なんぞ、我らが少しでも力を入れたら死んでしまうほどにか弱いのだ。
そんな人間を好んで殺めるといった弱い者いじめなんぞ我はせぬぞ。
新聖歴889年 氷月の十一日
昨日の人間たちは凍えておったそうだ。それはそうだろう。人間にとってみれば我の巣も結構寒い。
今年はライラとルグネが風邪をひかぬようにきちんと対処しておるぞ。二人が具合が悪くなったら困るからの。
あと人間たちは我を見て驚いておった。ラオは人型を取っておったが、我はドラゴンの姿で卵を温めておったからな。少し挙動不審であったが……。
新聖歴889年 氷月の十二日
卵を温めている中で人間共がうろうろしていると落ち着かぬ。だからラオが彼らを村に帰す事になったのだが、何だか渋っておる。
何か用があるのだろうか。ライラが難しそうな顔をしておった。
新聖歴889年 氷月の十三日
人間たちを燃やしてしまった。
新聖歴889年 氷月の十四日
昨夜起きた出来事を考えて我は思う。人間の中には欲深いものもいるのだなと。ライラがそうではないから少し人間と距離を縮めてしまったのかもしれない。
ラオが回収してきた人間たちは我が眠っている間に温めている卵に手を伸ばそうとしておった。しかも我の卵を売り払いたかったようである。思わず燃やしてしまった。仕方がなかろう。我の大事な子をどうこうしようとしていたのである。口からごわーって炎を吐いて燃やした。塵も残っておらぬ。
ラオとライラも卵を持っていこうとしていたのを知って怒っておった。ライラが村にきた人間たちは卵目当てかもしれぬといっておった。そんなことをしてきたら殺すだけである。
新聖歴889年 氷月の十六日
村にやってきているよそ者が我の事を人食い竜などと言い出したらしい。食っておらぬぞ? 燃やしたのを食ったといわれても困るのである。
討伐しなければならないなどと声高に告げているらしいが、村人たちは全く同調しておらぬようだ。村人たちの事は嫌いではない。ライラの故郷であるし、我の事をあちらも受け入れてくれておる。
新聖歴889年 氷月の二十日
山を登ってこようとしていた武装集団をラオが殺してきたといっていた。何でも村に居座っているよそ者が雇った連中だったようで、我とラオを殺して卵を奪いたかったようだ。
流石に我とラオが人間を嫌いではないといってもそんな事ほざいている連中に温情はやらぬ。子は宝である。
新聖歴889年 氷月の二十一日
ドラゴンの子供を欲しがるものは結構いるらしいのだ。卵から育てて、良いように使おうとしているものもいるらしい。そういえば、そういう話を聞いたことがある。
卵を盗まれたものもおるらしいが……その生まれた子は今どこで何をしておるのだろうか。母になるからこそ気持ちがわかる。盗まれた者はそれはもう落ち込んでおった。今でも子を探しているのだ。子を探して人の姿でいろんなところをうろうろしておると。
新聖歴889年 氷月の二十三日
よそ者の親玉がライラを人質にした。
我は動きたくとも卵を守る必要があるため、ラオが行った。ラオが激怒していた。ラオを怒らせるとはアホであるか。
新聖歴889年 氷月の二十四日
親玉はラオが殺した。ライラは無事である。良かった。
新聖歴889年 氷月の二十六日
きんきらきんから手紙が来たらしい。何でも先日殺した親玉はこの国の貴族だったらしく、ちょっとした騒ぎになっているらしい。正直どうでもいい。ライラは人間であるから慌てているが、我らドラゴンにとって人間の中の階級などどうでもいいのである。
新聖歴889年 氷月の二十八日
また手紙が来たようだ。この国の長の一族が我らの元へ来るらしい。でも討伐とかではなく、謝罪を含めてだそうだ。別にいらぬのだが……。
人間の世を我より知っているラオがいうには、我もラオも高位竜であるから国の長の一族が来るのも仕方ないことらしい。
新聖歴889年 氷月の二十九日
卵に罅が入って、中から子が生まれた。
一匹は、白竜で雄。
もう一匹は、黒竜で雌。
雄の方がラビノアで、雌の方がシノウールにした。
竜の子であるから、もう知能はそれなりに発達しておる。
でも力加減を覚えるまではルグネに接させない方が良いとライラにもラオにも言われた。
新聖歴889年 氷月の三十一日
ラビノアとシノウールとルグネを連れて村で年の収めを過ごした。
ラビノアとシノウールを子供たちが興味深そうに見ていた。二匹とも人とのかかわり方は念を入れて教えたが、まだ遊ばせない方が良いだろうという事でラオが連れておった。
ルグネは村の子たちと遊んでおる。
去年ルグネを連れてきた時、新鮮な気持ちになっておったが、今年は我自身が生んだ子もおって、余計に新鮮な気持ちである。
来年もまた、そういう気持ちを抱くのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます