ドラゴンさんの子育て日記⑤
新聖暦889年 文月の一日
ルグネが我をまぁまと呼んだ!
なんとすばらしき日か。ルグネが意味のある言葉を、それも我を指す言葉をいうとは。
腹を痛めて生んだ子ではない。種族さえも違う。しかし、我はルグネに母と呼ばれることに胸の内からの歓喜を感じておった。
ルグネが、我を「ママ」という母をあらわす語で呼んでくれるなんてと。
喜びすぎて思わず竜体で咆哮をあげてしまった。
ルグネになかれ、ライラに怒られた。
新聖暦889年 文月の四日
ルグネはライラのことはねぇねよびである。姉をあらわす語である。正直ライラも我と同様に母のような立場なのではないかと問いかけたら、私はそんな年ではありませんっと怒られた。
そうか、よく考えればライラは年頃の娘である。人の世の中ではライラぐらいの年でも子を持つものもいるだろうが、ライラは番のいない娘である。
ライラもいつかは誰かと番うのだろうか。あの友人のように番って、会わなくなるのだろうか。それは、寂しいと我は思ってしまう。
新聖暦889年 文月の十二日
しばらくライラもどこかに番うのだろうと考えて悲しくなっていたが、「まぁま」と呼ぶルグネに癒された。ライラにも心配されてしまった。
ライラに聞いてみた。ライラはどこかに番うのかと。
普通に番うといわれた。困った顔で言われたのだが、ライラは我と親しいことで村人たちに敬遠されているらしい。が、機会があればいつでも番うといっておった。
ライラは雌として子を産みたいらしい。うーむ、我にはそこまで理解できない感情だ。しかし、ルグネを拾った今、我には母性なるものが芽生えてきていると思う。番うことに対しての関心はないが、ルグネにもっと家族を作ってやりたい気はしなくもない。うむ、ちょうどよいやつがおるし番ってみてもよいかもしれぬ。
新聖暦889年 文月の二十日
「我、ルグネに弟妹を作る」と宣言したら、ライラに問い詰められた。
新聖暦889年 文月の二十一日
ライラにルグネに姉弟を作るために誰かと番うといったら、もっと自分を大切にするように怒られた。番うことは大切なことであり、そんな誰とでもいいって考え方ではならんと。
なんと、ライラは我が誰とでもかまわず交尾をするのではないかと心配をかけてしまったらしい。そんな気はなかったのだが。
新聖暦889年 文月の二十二日
じゃあ誰と番う気だったのかと聞かれた。
答えたらもっと詳しく話せといわれた。
新聖暦889年 文月の二十三日
ライラにあきれられた。なぜ呆れられたかというと、我が番うのにちょうどよいといった相手のことを詳しく話したためだ。
我には幼体のころよりの知り合いの黒竜がおる。そやつは昔から我の周りをうろうろしておった。成体になった時に求婚された。興味なく断った。あやつ、図太いためこりもせず求婚をし続ける。世界をぶらぶらする中で時折顔を出す。そしてそのたびに求婚してくる。そういうやつである。
あやつなら我が子がほしいといえば喜んで交尾すると思ったのだ。まぁ、しばらくあってないが問題はなかろう。
そう思ったのじゃが、ライラからすれば何十年も会っていないのにそんなのでいいのかということであったらしい。それにその間に心変わりしていたりしないのかと。
それはないと我はいえる。だってあやつ、我のこと大好きでたまらないのである。正直我に求婚しないあやつなど想像もできぬ。
ライラはその物言いに呆れておったが、我に求婚してこないあやつなどあやつではないとさえ思えるぐらい記憶の中にいるあやつは求婚ばかりしてきておった。
新聖暦889年 文月の二十七日
我はルグネの名前を呼びながらルグネと遊んでおった。
のんびりとルグネの成長を喜びながらすごしておったら、番うといっておったのはどうしたのだとライラに聞かれた。
そのうちくるから問題ないと告げれば不思議そうな顔をされた。
我、あやつがどこをふらついておるのかは正直知らぬ。我がぶらぶらしているのと同様にあやつもぶらぶらしておる。
あやつが我の元へ来るというのが我とあやつのコミュニケーションである。我、今回あやつに交尾をしようという用件があるため、呼び出すことにした。やることは簡単である。我の魔力を垂れ流したというだけである。あやつ、我の魔力をすっかり覚えているからそのうち飛んでくることであろう。
ライラはそれを聞いてなんともいえない顔をしていたが、ルグネに父親ができるのはよいことだといっておった。
新聖暦889年 文月の二十八日
先日の父親という言葉にふーむという気になっていた我である。正直我はルグネに家族を作ってやりたい、弟妹を作ってやりたいと考えていただけであやつからは子種をもらえればそれでいいと考えていたのである。
しかし、弟妹だけではなく父親というものもいたほうがいいのだろうかとルグネを抱っこしながらライラに聞いたら怒られた。
なんでも好きな相手がようやく振り向いてくれたと思ったら子種目当てで本人には用がないなんてのは人に置き換えるとかわいそうでたまらないらしい。
ふむ、そうか。我はあやつに可哀想なことをしようとしていたのか。特に自覚はなかったが、まぁあやつが嫌いなわけではない。ルグネに父親がいたほうがいいというのなら子種をもらうだけではなく、子の父親としていてもらっても問題はなかろう。
しかし赤子とはすごいと我は思う。番うことに興味のなかった我に子を作ってみるかと思わせるとは。
新聖暦889年 文月の三十一日
あやつが来た。
我の抱くルグネを見て誰の子だと暴走し始めたため、とりあえず意識を飛ばさせた。
目が覚めてから説明してやろう。
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