幕間 ドラゴンさんのいる国の長とは

 ドラゴンさんの親しくしているザイドラ村。

 その村はリブン王国と呼ばれる王国に所属している。その国の長は、ドラゴンさんの言うきんきらきん2号——2号である。


 その2号の本名はキジシサー・リブンという。

 まだ年は三十を超えたほどの若い王だ。先代王から王位を継いでまだ間もない美しき人の王。

 王家に生まれ、王となった生まれながらの権力者。

 彼が、ザイドラ村という辺境の地の事を認識し、何度も訪れる事になるとは王になった当初は想像も出来なかった事であったと言える。




 本来ならば、ザイドラ村という辺境の地は王の記憶の片隅にあるかないかといった程度の認識の場所であったといえる。

 しかし、ザイドラ村に高位竜であるドラゴンさんたちが住みついた事によりザイドラ村は王や王国にとって重要な場となっている。いや、住みついただけならばここまで運命が絡み合う事はなかっただろう。そのドラゴンさんが人間の赤子を拾い、人間と交流を始め、高位竜が増え、子をなした。そこまで起きたからこそ、人の王にとってその場は重要になり得た。



 高位竜とは、人の手に余る存在である。その存在を怒らせたのならば国が亡ぶといわれているほどの強大な力を持つ存在だ。

 その強大な力を持つ存在が親しくしている人間の少女が公爵家に嫁いだとあれば、その存在を全力で守らなければならないのは当然であった。また王の子供達がドラゴンさんの子たちと親しくなったのもあり、余計に王はドラゴンさんたちの逆鱗に触れないようにしなければならないと考えていた。



 もちろん、王国の利害を考えての事もあるがドラゴンさんの事を純粋に人として気に入っているからという理由もあった。




 ドラゴンさんは家族や友を大切にしているドラゴンだった。

 ドラゴンさんたち家族の中心にいるのは何時だってドラゴンさんで、ドラゴンさんさえ怒らせなければ何とかなるだろうと王は付き合いの中で理解していた。

 ドラゴンさんが王国に牙を剥く事がないように、注意を払いながら王は対応をしている。

 ……まぁ、王は元々ドラゴンという強大な力を持つ存在にひそかな憧れを抱いていたので、ドラゴンさんたちと関われる事を純粋に喜んでおり、ドラゴンという存在に失礼な態度をするのを許せないと考えていたのもあるのだが。



 リブン王国は自然に恵まれた豊かな地であり、その分資源も豊富で、財政に余裕がある。その事もあって、近隣諸国の中では王国から領土を奪いたいと願っている者達も多くいる。それに対する抑止力にドラゴンさんたちはなっていた。

 リブン王国が高位竜たちを手なずけたなどと噂話が広まっているぐらいである。もちろん、王は手なずけたなどと恐れ多い事は考えてはいないが。

 ドラゴンさんの拾った人間の子供が魔力を持ち合わせていた事からも、もしかしたら高位な血筋を引いているのではないかという懸念を王は持っているが、例え何かしら事情がある血筋だったとしても全力であの親子が共に居れるように手伝おうと王は考えていた。

 利害を考えてもであるが、純粋にあれだけ絆で結ばれている親子のためになら何かしてやりたいと思っていたのも事実である。


 そんな風にドラゴンさんに2号と認識されている王には最近悩みがあった。





 それはドラゴンさんを王宮に招待したりするのはしてもいい事なのかという事である。ドラゴンさんたちは親しい人間の少女に会うためにシューベル公爵邸をよく訪れている。公爵家とドラゴンさんたちが親しくしている事は王にとっても喜ばしい事である。



 しかし、王としてみればできれば王宮にもドラゴンさんたちを招待してもっと交流を深められないものかと思っていた。これが王国民であったのならば王命を使う事も出来るだろうが、竜とは人の理とは別の世界で生きているものであり、王命なんて関係がないのである。



 そのため王宮に誘っていいものか、パーティーとか誘っていいものかなどと、今まで悩んだ事もなかったようなことで王は頭を悩ませていた。

 そのことを相談されたシューベル公爵夫人……ライラは「誘って大丈夫だと思いますよ」とニコニコと笑っていた。

 シューベル公爵には「……陛下は私と違って名前を覚えられてなくても気にしないのですね」と同志を得られてなかった事に何とも言えない表情をしているのであった。



 王が悩んだ末にドラゴンさんたち一家を誘うのはまたしばらくたってからの話だ。

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