幕間 ドラゴンさんとは。
ザイドラ村は辺境の地に位置する小さな村である。その規模は50人程度。村人たちは全員が知りあいであり、閉じられた世界がそこには広がっている。
ザイドラ村は穏やかで、平和な村である。
さて、そんなのどかな小さな村は今では平凡とは言えなくなってきた。というのも、この村の傍にドラゴンが居ついていたからだ。
真っ白なドラゴン。巨大で、神秘的なオーラさえも醸し出しているドラゴン。
それが数十年前より居ついていた。そのドラゴンが村の上空を飛んでいるときは騒がれたものの、何も起こす事はなかった。ただ暮らしていたというのが正しいだろう。時々目撃される程度で村人たちがかかわるなんて事はなかったのだ。
しかしあるとき、そのドラゴンを時折目撃するだけの日々は変わった。
というのも、ドラゴンの方から接触してきたのである。村の娘であるライラが鉤爪で連れて行かれた時は、村はドラゴンの怒りを買ってしまったのではないかと村人たちは騒ぎ立てた。が、そんなことはなかった。
ライラは無事に村に帰ってきた。赤子を抱いて。
信じられない事に、その小さな赤子はそのドラゴンが拾ったものであるという。
そしてその赤子をドラゴンは育てようとしていたらしいが、育て方がわからないということでライラを連れて行ったのだという。
村人たちはライラが平然とドラゴンに意見を言う姿を見て目を疑ったものだ。
それから心配する村人をよそにライラはドラゴンの傍にいるようになる。なんでも赤子とドラゴンを二人で置いておくと心配らしい。ドラゴンもライラに感謝の心を持っているのが、ドラゴンにとっては握りつぶすだけで命を奪えるような人の女子の言葉にも耳を傾けていた。
時折ドラゴンは村にやってくるようになる。
村人たちははじめのころはそれはもう警戒し、怯えていた。
が、ドラゴンは穏やかな性格をしていた。人を害そうなどという狂暴な考えなど持ち合わせていなかった。
次第に村人たちもドラゴンが村にやってくる生活を受け入れ始める。
それが決定的になったのは、ドラゴンが人の姿を取ってからである。
人の姿に変化したドラゴンは、それはもう美しい女性である。白銀にきらめく髪を腰まで伸ばし、全体的に美しいといえる。人ならざるものの美しさがそこにはある。加えて胸も大きく、そんな近寄りがたい外見をしているというのに自分の美しさには無自覚。美しい女性が自分を我なんて口にしているのに、村人たちは(特に男)はドラゴンに好感を抱き始める。
しかし村の男たちは幾ら綺麗だと思ったとしてもドラゴンに声をかけることもできずに、遠くから見守るだけである。
さて、村人たちがドラゴンに慣れ始めたころ、ドラゴンがよく目撃されると国の騎士たちがやってきた。こんな辺境の村に国の騎士がやってくるのなんて本当に稀である。
騎士たちは村人たちが幾らドラゴンは危険がないといっても信じられないようであった。結局ドラゴン自身が出てきて、騎士たちはかえっていった。
もしかしたらまた国から何かしらの使者が来るかもしれないが、村人たちはドラゴンが好きなので、味方でいようと決意をする。
ドラゴンと村人たちとの交流は続いていく。ドラゴンは赤子を抱いて村にもよくやってくる。ドラゴンと人の赤子という全く違う生物であるが、その姿は立派な親子にしか見えない。何より、ドラゴンは赤子をいつくしんでいる。
村の男たち、やはりドラゴンに懸想するものもいるが、ドラゴンに声をかけられない。
そうしているうちに、ドラゴンは夫を作ったようだ。それは、黒いドラゴンである。白いドラゴンであるシルビアよりも、巨大なドラゴン。それがシルビアの夫として居つくようになる。
村の男たち、大発狂していた。が、ライラに「シルビア様が貴方たちなんかになびくわけない」と冷たく言われていた。
さて、人型になったその黒いドラゴン――ラオウールもまた美形である。このあたりでは珍しい真っ黒の髪を持つ背の高い男。というのが、彼の人の姿である。それを初めて見た時、村人たちはドラゴンは人の姿になると美しい者にしかならないのかと驚いた。
そのラオウール、シルビアと違って無自覚ではない。シルビアに対して視線を向けてくる男を威圧したりもしている。シルビアと比べて攻撃的なドラゴンだ。
しかし村はドラゴンという存在に慣れており、なおかつシルビアの夫ということで威圧してこようともラオウールの事を受け入れる。
そんなわけでザイドラの村は、ドラゴン夫婦とその子供の赤子といった普通の村では考えられない存在と共存して暮らしている。
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